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岩石


11 四万十層砂岩の
コンボリューション(海溝底堆積物)


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高知県行当
鳥海光弘
一九九四年九月採集
総合研究資料館、岩石z床部門

四国四万十川の名前に由来を持つ四万十帯は沖縄から四国、紀伊半島、中部地方、および関東にかけて太平洋岸に帯状に分布する地質体である。この地質体は、ほとんど2000万年前から7000万年前の間の時代に大量の土砂が陸域から流れ、海溝に沿って乱泥流となって厚く堆積し、その後に日本列島などの島孤の下のマントルに沈み込んでいたプレート運動に呼応して、海溝に堆積していた岩石や、まだ固結していない堆積物が陸側に大規模に付加してつくられた。こうして形成された地質体を付加体と呼ぶ。付加体が次々とつくられることによって、大陸や日本列島のような島孤はいわば成長してゆく。日本列島のうち関東より西側の西南日本では、日本海側から太平洋側にかけて、1億5000万年前から次第に太平洋側に成長し続けていることがわかっている。現在もなお南海海溝で堆積した堆積物は日本列島に付加しているのである。

展示標本は室戸半島の行当から採取された砂岩である。これは1枚の海溝底の乱泥流から形成されたものであり、上面は平坦であるが、下面は下に垂れ下がった曲面をつくっている。この砂岩は下と上は泥岩でやはり乱泥流堆積物である。泥岩は未固結の状態では砂より水はけが極めて悪い。そこで泥の上部に砂が乱泥流で運ばれてくるとまだ大量の水分を持っているために砂が泥の中にその重みで入り込んでいき、水を排出する。このとき砂につくられていた縞模様(ラミナ)は砂の移動に伴って褶曲する。このような褶曲構造はコンボリューションと呼ばれている。よく似た構造には乱泥流の下底でできる渦などによる流れの痕跡(フルートカスト)などもある。このように海溝底で起こる排水の物理過程もその痕跡をこのような美しい物理化石となって残している。

(鳥海光弘)


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