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岩石


10 三宅島1983年噴火の玄武岩溶岩


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東京都三宅島
1983年採集
総合研究資料館、岩石z床部門

玄武岩溶岩は溶岩の表面の形状に基づいて、アア溶岩とパホイホイ溶岩とに区分される。この奇妙な名前は、玄武岩溶岩の活動が頻繁に起こっているハワイの原住民の呼び方にちなんでいるためである。アア溶岩の表面はガサガサしているうえに、ブロック状に割れていることが多いために、その上を歩くのは大変困難である。多くの場合、数メートルから数10メートルの厚さを持つ。一方、パホイホイ溶岩の表面は普通はなめらかで、噴火したばかりの溶岩では表面が薄いガラスでおおわれている。溶岩の厚さはたいていの場合、数10センチからせいぜい数メートルと薄い。時には、溶岩がまだ流れていたときの表面の波立ちが、縄状に保存されていることもある。

今回の展示にはこのような玄武岩溶岩のうち、アア溶岩の典型例を用意した。標本は三宅島1983年噴火の際の溶岩流から採取されたものである。アア溶岩の表面の複雑な形状は、様々な原因でつくられたものである。地下にマグマがあったときには高圧のためマグマ中に溶け込んでいた気体成分は、地表に噴出すると溶け込めなくなる。この気体成分が気泡となって逃げ出した跡がたくさんの小さな穴として残っているためにガサガサにみえる部分もある。場合によっては、この丸い穴が引き延ばされて、複雑な格好になることもある。溶岩噴泉で吹き上げられたマグマのしぶきが降り積もって固結したために、表面がガサガサになっている部分もある。また、溶岩が流動している最中に溶岩中に取り込まれた空気が、溶岩の高い温度のために膨張して空洞として残ったりすることもある。

アア溶岩が流動している際には溶岩の先端部にはガサガサの溶岩の崖ができあがり、この崖が絶え間なく崩れ落ちることによって溶岩全体が前進することになる。したがって、流れるという表現はあまり適当ではない。映画やテレビの映像でよくみかける川のように溶岩が流れている場合は、固まってしまうとアア溶岩ではなくパホイホイ溶岩となるのが普通である。

展示標本はアア溶岩の表面近くから採取されたものなので、表面のガサガサした様子がよく分かるが、アア溶岩といってもその内部までガサガサしているわけではなく、内部は均質で、緻密な岩石となっている。これは溶岩が流動している間は固まっていない高温の液体が内部に存在していたためである。三宅島の阿古の集落に行く機会があれば、一周道路の一部で、このようなアア溶岩の断面を見ることができる。

ところで、三宅島は伊豆七島のほぼ中程に位置する成層火山の上半部分であり、海底からの高さを考えると、高度1800メートルの円錐形の火山である。水面上に露出している島の部分は長径約10キロメートル、短径約9キロメートルのほぼ円形をなし、最高部分は海抜814.5メートルである。この火山を構成する岩石は、伊豆大島と同様、玄武岩溶岩が主体であるが、まれには安山岩もみられる。

三宅島の火山としての活動史は、地質時代についてはほとんど明らかになっていないが、歴史時代に入ってからは、種々の古文書に噴火記録が残されていて、比較的よく分かっている。最近の噴火を含めて、合計15回の噴火が確認されている。それによれば、1154年から1469年の315年間は噴火の記録がない。このことが実際に噴火が起こらなかった休止期間にあったことを示しているのか、単に古文書の記録が欠如しているだけなのかは明らかではない。この期間を除くと、それぞれの噴火は21年から69年おきに起こっており、平均すると39年の間隔で噴火が発生していることになる。したがって、数10年に1回の割合で噴火をくりかえす、比較的活動的な火山であると言える。

今回展示した標本は、21年ぶりに1983年に噴火した際の玄武岩溶岩である。この噴火は、前の2回の噴火(1940、1962年)の場所とは山頂をはさんでほぼ反対側にあたる、南西斜面で発生した。10月3日、午後3時15分ごろに始まった噴火は、近年の活動と同様に、山体に割れ目が発生して、カーテンのようにマグマを吹き上げる割れ目噴火であった。噴火の割れ目は村営牧場上部(海抜510メートル)から南側の海岸沖までの4.5キロメートルに達した。高度が70メートルよりも高い部分ではマグマを吹き上げる溶岩噴泉が発生し、噴火の最盛期の数時間は、村営牧場まで噴泉がつながって、まさに火のカーテンのようにみえた。一方、海抜70メートルよりも低い部分では、マグマが地下水や海水と接触して起こるマグマ水蒸気爆発を主とする噴火が起こった。山腹部の溶岩噴泉の一部からは、マグマが溶岩流となって山腹を流れ下り、そのうち最も北寄りを流れた溶岩流は阿古の民家を多数埋没させた。この溶岩流から採取された標本が、今回の展示物である。

溶岩はカンラン石含有普通輝石玄武岩で斑晶量は少ない。斜長石斑晶が5パーセント以下、カンラン石、普通輝石等の有色鉱物は1パーセント以下にすぎない。

(藤井敏嗣)


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