前のページ ホームページ 一覧 次のページ

 

岩石


6 三波川変成帯の角閃岩


-23Kbyte image-

高知県汗見川上流
R・ウィンチ(Wintsch)
1994年8月採集
総合研究資料館、鉱床部門

三波川変成帯は九州東部佐賀関半島から関東山地長瀞にかけて長さ約800キロメートル、最大幅は四国中央部で50キロメートル程度の細長い広域変成帯である。世界的にも連続性のよい変成帯として研究が盛んに行われている。変成帯は1億5000万年前に海溝であったところに大量の堆積物がたまり、当時の古太平洋底に堆積した玄武岩や泥岩、放散虫遺骸からなるチャート、珊瑚礁に由来する石灰岩体などがプレートの沈み込みに伴って海溝底に堆積した砂岩や泥岩の中に挟み込まれ、全体としてそのまま地下の40〜60キロメートル程度の深さまで押し込まれた地質体である。このとき2つの物理過程が起こる。一つは鉱物や水などの間の化学反応であり、一つは、固体の流動という変形過程である。前者は変成作用と呼ばれている。変成作用は温度と圧力の条件によって化学反応が大きく異なる。また、プレートの沈み込みに伴い付加帯が地下に押し込まれても、付加帯の位置によって押し込まれた深さは異なり、そのため温度も違ってくる。そこで、変成帯では様々な鉱物を持つ変成岩が温度や圧力の変化に対応して規則的に変化する。三波川変成帯では、泥岩は南から北へ順に白雲母、緑泥石、石英からなる片岩、ざくろ石、緑泥石、白雲母、石英からなる片岩、ざくろ石、黒雲母、白雲母、緑泥石、石英からなる片岩へと変化し、しかも次第に結晶の大きさも大きくなる。この順に変成作用の温度や圧力は大きくなったことがわかっている。一方、玄武岩起源の変成岩は南から北へ緑泥石、パンペリ石、緑廉石を含む片岩、緑泥石、アクチノ閃石、緑廉石を含む片岩、藍閃石、緑泥石、緑廉石を含む片岩、さらに普通角閃石、アルバイト長石、緑廉石を含む片岩または片麻岩へと変化する。最近ではさらにざくろ石、輝石、角閃石、アルバイト長石からなるエクロジャイトも認められている。これらの岩石は帯状に分布して、付加帯が沈み込みその後上昇したときの造山運動の全過程の物理化石ともなっている。

展示標本は四国中央部の三波川変成帯から採取した玄武岩起源の緑廉石角閃岩である。白い結晶はアルバイト長石であり、周囲の濃緑色の短冊形の結晶は角閃石である。結晶は片岩のように広域変成作用で形成されると、固体状態のまま流動する。このときに結晶は岩石の流動の方向に並ぶ。標本に見られる鉱物の配列は三波川変成作用に伴う固体の流動の方向を示している。この方向は関東山地から九州まで変成帯の伸びの方向と約10度斜交する方向であり、これはまた、変成帯全体が地下の40〜50キロメートルから上昇してくる方向である。すなわち変成帯の延長方向にやや斜めに、現在の方位でほとんど東西に上昇してきたことがわかっている。この標本の結晶の配置が日本全体の幾何学的配置と一致しているのは美しいことである。

(鳥海光弘)


Copyright 1996 the University Museum, the University of Tokyo
web-master@um.u-tokyo.ac.jp