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岩石


4 輝安鉱


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愛媛県西条市市ノ川鉱山
若林彌一郎
総合研究資料館、鉱山部門

輝安鉱Sb2S3のわが国における産状は、(1)石英または粘土鉱物とともに鉱脈をなす、(2)自然砒As、鶏冠石As4S4、雄黄As2S3、硫砒鉄鉱FeAsS等の砒素鉱物とともに鉱脈をなす、(3)金鉱脈中、(4)種々の金属鉱脈中に副成分として、等である。特に、愛媛県の三波川変成帯中の市ノ川鉱山から明治14、5年頃に多量の大型の良晶が産出し、内外の博物館等に陳列されている美麗な標本は、多くその時の産出と伝えられている。市ノ川鉱山では中生代の母岩を切る石英脈に産した。アンチモンを含む鉱物は西南日本の中央構造線に沿ってみられ、鉱脈の形成が関連しているのであろう。

本展示標本も市ノ川鉱山より産出したもので、資料館所蔵の若林鉱物標本に属している。若林鉱物標本は、秋田県荒川鉱山、岡山県吉岡鉱山の鉱山長などを歴任した若林彌一郎博士が蒐集し、1934年に当時の東京帝国大学鉱物学教室に寄贈されたものである。その後、1966年に資料館に移管され、本館2階に常設展示されている。若林鉱物標本中の輝安鉱は市ノ川鉱山以外、愛知県津具鉱山、兵庫県中瀬鉱山、大分県馬上鉱山、鹿児島県大口鉱山などの産出品からなる。

輝安鉱は斜方晶系に属し、c軸方向に伸びた柱状の自形を呈す。柱面に条線を見る。普通は放射状の集合、柱状または粒状の塊として産す。比重4.6、硬度2、劈開が{010}に完全である。和田維四郎は市ノ川の輝安鉱の採集に努め、測角により三種の晶相があると主著「日本鉱物誌」(明治37年刊)に述べている。挿図1にこれを再録した。

 
4-1 愛媛県市ノ川鉱山産輝安鉱の晶相(和田維四郎著「日本鉱物誌」より)。左:尖端の結晶面p、τ、n等の錐面を主体とするもの。中央:錐面Tを主体とするもの。右:特に結晶面に富むもの。 4-2 輝安鉱のc軸に沿った結晶構造投影図(森本譽都城著『鉱物学』、岩波書店より)。

輝安鉱の結晶構造は古く1933年にW・ホフマンにより解析されている。空間群Pbnm、格子定数a11・22、b11・30、c3.84オングストローム。c軸に沿って投影した結晶構造図は森本・砂川・都城(1975)による。c軸方向の短い周期は硫化・硫塩鉱物にしばしば見られるもので、そのため単位格子内でc軸方向の原始座標zは0.25(挿図2、白地部)と0.75(斜線部)の値のみをとる。構造は(Sb4Se)nの鎖がc軸方向に走っている。鎖内でSbとS原子間の(最短結合)距離は約2.5、一方隣接する鎖間では原子間距離が最低約3.2オングストロームあるので鎖間はゆるい結合になっている。

類似の結晶構造を持つ鉱物に、輝蒼鉛鉱Bi2S3、アイキン鉱CuPbBiS3(輝安鉱のSb席をPbとBiが置き換え、かつCu原子がSに対して四配位になる空隙をうめている)などがある。

(小澤 徹)


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