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陶俑・木俑・土俑

(中国)


35 灰陶犀


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灰色素焼き
中国
西晋時代(3世紀)
通尾高24.3cm、長さ28.0cm
大正3年10月12日、工学部建築史講座受け入れ。
資料館建築史部門(K0010)

灰色の素焼のやきもので作った動物像。背中に3本の角と2つのいぼがある。高く挙げた尾の先端は、欠けて失われている。胴の内部は空洞で、腹の部分に楕円形の孔がある。表面には黄土が付着している。

西晋時代の墓には、これと類似した、頭や背に角やいぼをもつ獣の像がしばしば副葬される。多くは灰陶(灰色の素焼土器)製であるが、青銅製あるいは青磁製(邵伝国1987、図564)のものもある。尾を高く挙げ、後ろ足を一歩引いて身構える姿勢も共通する。この一群の動物の像には、現実の犀をかなり忠実に模したものがあるため、一般に「犀」と呼ばれている。しかしこれら西晋時代の「犀」の中には、実際の犀とは違った特徴を持つものが少なくない。翼を持つものすらあるのである(河南省1957)。これらの動物像は、犀をモデルとしたにせよ、実は多分に空想的な、特殊な力をもつ動物であったことがわかる。

展示の獣も、背に1本の細長い角を持つこと、顔が豚・牛を思わせることなど、現実の犀を正確に表わしたものとは言い難いが、西晋時代のいわゆる「犀」に属するものと考えられる。出土地は不明であるが、西晋時代の灰陶の「犀」の分布から見て、華北地方であった可能性が高い。

漢時代以降、中国では焼きものなど安価な材料を用いて、人・家畜・家屋・什器などの模型を作り、墓に納める風が盛んになった。この非実用の品物を明器(めいき)と呼んでいる。これもそうした明器の1つである。

西晋の「犀」の特色は、角を前に向けて身構えるという攻撃的な姿勢をとっていることである。外部から侵入する敵から墓を守る役割を与えられていたであろうことは、容易に想像できることである。

漢時代の画像石・画像・青銅鏡などの図像には、頭から前に1本の角を突き出し、足を踏ん張り、尾を高く挙げている獣がしばしば登場する。また数は多くないが、灰陶や木でそうした獣を作り墓に納めた例もある(張朋川・呉怡如)。これらは普通「一角獣」と呼ばれ、西晋時代の「犀」とは区別されている。しかし角を前に突出し、尾を高く挙げ、足を踏ん張るさまはよく似ており、両者が無関係とは思えない。「一角獣」も「犀」も現代の学者が用いている名称である。当時の人々がこれらをどう呼んでいたかを含め、両者の関係を検討する必要があろう。

(谷豊信)

参考文献

河南省文化局文物工作隊第二隊、1957、「洛陽晋墓的発掘」『考古学報』1957年第1期、北京
邵伝国(編)、1987、『中国雕塑史図録(2)』、上海人民美術出版社
張朋川・呉怡如、『武威漢代木俑』、人民美術出版社、北京


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