東京大学総合研究博物館では1996年の開館以来、学術標本の収集や整理研究を進めるとともに、公開展示事業にも積極的にとりくんできました。年に2回から3回開催している特別展示は、学内に蓄積された600万点ともいわれる大量の学術標本を公開し、学内で進行中の研究成果を広く社会に伝えることを目的とするものです。2007年度最初の展示は、西アジア考古学をテーマとして開催する運びとなりました。 東京大学の西アジア考古学調査は1956年、戦後日本初の人文社会系大型海外調査としてイラク、イランで始まりました。それから50年、研究者たちは今もシリアを中心とした西アジアで調査研究を続けています。この間、北メソポタミア農耕村落の起源と発展を調べることを一貫したテーマとしており、近年まれなほど息の長い野外調査プロジェクトの一つとなっています。 農耕牧畜という食料生産経済の始まり、村の発生は古代文明への歩みの原点でもあり、その後の人類史を決定づける転換点でもありました。今回の展示は、それに関わる研究活動の一端を紹介するものです。考古学の展示ではありますが、土器、石器などの人工物の他、動植物化石や鉱物などの自然史標本をまじえた多様な物件で展示は構成されています。事実、農耕牧畜の考古学的研究は、文化史研究の枠にはおさまらない総合科学です。そうした研究の推進、また展示は、総合研究博物館ならではの試みではないかと考えます。 最後になりましたが、シリアからの発掘品移送に格別の配慮をいただいたシリア考古遺産庁、駐日シリア大使館はじめ、展覧会の実現のためご協力いただいた関係各位、機関にあつく御礼申し上げます。
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