どうやって直立二足歩行していたか見分けるの?



 ひと言で答えるのはむつかしいのですが、直立二足歩行では重心が股関節や膝関節の近くに位置し、バランスが取りやすくならなければなりません。そのために、脊柱や骨盤や下肢のあちこちに、類人猿とは違った独特な構造が見られます。バランスをとるための筋肉の配置も、骨格構造と共にセットで進化してきたと考えられます。ですので、骨の見方のポイントがわかっていれば、化石からでも直立二足歩行を行っていたかどうか、判断がつきます。
 幅が広く、上下に短い骨盤が直立二足歩行のための構造改革の重要な一つです。上下に短く幅が広いと、脊柱の腰部が前方の凸湾を形成しやすくなり、重心が股関節の真上に近接して、バランスがとりやすくなります。人類に独特な、いわゆるS字状に湾曲した脊柱の出現です。 また、幅の広い骨盤は大腿部の筋と殿筋群の変革とセットで起こったに違いないので、歩行時の筋機能とも関連していたのです。さらには、上下に短くなった腹部の内容物の支えとしても機能したことでしょう。
 膝が内側についているのも、バランス制御と関連する直立二足歩行の特徴です。こまかい関節構造などの特徴はさておき、大局的には、幅の広い骨盤から膝まで大腿骨が斜めに降りてくるので、大腿骨の骨幹軸が膝関節の水平軸に対し、10度ほど斜めになっています。面白いことに、この特徴は現代人でも新生児にはみられなくて、歩き始めたあとに形勢されます。すなわち、歩行時の刺激を受けて骨の発育が調節され、斜めの角度が形成されるようです。

 足もまた、直立二足歩行の証をふんだんに示しています。例えば親指ですが、全ての霊長類に当てはまる一大特徴の一つが、把握性の足の第一指であるにもかかわらず、人間だけがその例外です。一部の専門家によると、アウストラロピテクスには可動性の高い親指がまだあった、とのことですが、これは第一指の関節形状を見誤ったことに基づいています。実際には、アウストラロピテクスは、現代人と同様に、完全に足の親指の把握性を失っていました。
 かかとの骨が大きいのも直立二足歩行の特徴です。アウストラロピテクスでもかかとの骨が十分大きかったことが知られています。大きなかかとの骨の中には海綿状の骨がぎっしりとつまっています。我々がかかとで着地すると、強い衝撃を受けるのですが、その衝撃を吸収するのに役立っています。うまく衝撃が緩和されないと、関節軟骨がどんどん劣化してしまいます。
 把握性を失った親指は前方を向き、直立二足歩行に適応した足特有の、縦方向のアーチを形成しています。足のアーチは、関節構造と靭帯によって保たれていますが、蹴り出すときには足の指が背屈し、靭帯が引っ張られ、アーチがさらに強化され、無駄のない蹴り出しが達成されています。アウストラロピテクスの足にアーチがあったことは、有名なラエトリの足跡(350万年前)からもわかります。