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福島県海洋文化・学習施設

古市徹雄・都市建築研究所


CG画像
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1階平面図
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2階平面図
2階平面図
3階平面図
3階平面図
4階平面図
4階平面図
塔階平面図
塔階平面図

福島県の太平洋岸で、カツオをはじめとした漁業の基地として知られる小名浜港に計画された複合的水族館施設である。

敷地は港に突き出した埠頭の先端部にあり、漁業のための港湾施設やプラントが立ち並ぶ港の中でも、観光物産館や客船イベントバースなどの計画が進められている再開発区域に当たる。埠頭は外洋に面しているものの、沖合には住宅・緑地を含む人工島が計画されており、海への眺望はかならずしも優れているとは言い難い立地であった。

小名浜市街の中心軸はプロムナードとなって海へと続き、敷地の東側で港に接続している。そこでその部分の湾を囲むように木製デッキ張りのボードウォークを提案し、海辺のにぎわいと敷地に向かう人の流れを作っている。そして緑の少ない周囲環境に対して多くの緑地を提案し、全体が活気ある臨海公園となることを意図した。緑地に面してはバーベキューコーナーやフローティングシアター、屋台になる可動のレンタルショップユニットなどが計画され、さらに工事で発生する残土を利用して大きくうねる芝生の丘陵が計画されている。ゆるやかで力強い波をイメージしたこのマウンドは海を見晴らす斜面広場であるとともに、そこに埋め込まれるようにバーベキューキッチンや公衆トイレ、また屋外機械エリアやスタッフ駐車場、メンテナンスヤードが設けられ、公園から隠されている。

こうした市街からの人の流れが敷地の東側からであるのに対して、施設の駐車場は西側にあるイベントバースと共用する必要があったため、施設へのアプローチとしては東と西の両方を考えなければならなかった。このふたつの人の流れをスムーズに連結し、施設へと引き込むために、東のボードウォークと西の駐車場側を結んでガラス張りのガレリアを計画した。

レストランやミュージアムショップが並び、自由に立ち寄れるバザール的な性格のガレリアは、夜間までオープンし、また多目的ホールや研修室、多目的映像シアターが隣接していつでもにぎわう場所となる。そして施設全体のエントランスホールをも兼ねるこの空間から、修景池の向こうに見える水族館棟へとアプローチする計画とし、施設全体を2ブロックに分ける構成とした。

水族館棟には、大水槽を含む各種の展示に加え、飼育のための研究施設、キーパースペース、また生物飼育のための機械室などが含まれ、ガレリアとは2本のチューブ状通路によって結ばれている。

生物を飼育するために24時間のメンテナンスが必要であり、また規則正しい運営リズムを持っている水族館部門を他の部分から独立させることによって、全体の維持管理が合理化され、またランニングコストの無駄を抑えることができる。加えて多目的ホール、大型映像シアター、研修室群などをガレリアと一体とすることにより、これらの施設のアクティビティは上がり、不定期な夜間のホール貸出し、シアターの単独イベント開催など拡張された利用方法が可能となる。こうした柔軟な計画とすることで、観光施設であるだけでなく、住民にも開かれた地域振興の拠点施設となることを意図した。

水族館棟は金属の外皮による巨大な曲面のボリュームとしてデザインされており、鯨やイルカ・大型の魚類など、海の豊かな生命をイメージさせるユニークな形状を持っている。このボリュームはガレリアに面する北側で突然切断されたような切り口を見せ、ガラスに覆われたその面を通して大中小の水槽、飼育設備機械室などの様子を外から見ることができる。

通常、水族館はその機能のために開口部の少ない外壁で囲まれ、閉鎖的で表情に乏しい建物になりがちであるが、ここではエントランスガレリアに対峙した大きなガラス面をあえて設け、ガレリア及び海沿いのプロムナードから様々な内部の様子が見える計画とした。昼間は、2階、3階の水族館展示室部分は水槽の展示効果のためロールスクリーンで閉じられるが、4階のオーシャンアトリウム及び1階、B1階の飼育設備機械室は外から内部が眺められる。水族館の中心空間であるオーシャンアトリウムを外から見せることで館に対する興味を呼ぶと共に、濾過装置やポンプなど通常は隠された機構もまた興味深い水族館のプレゼンテーションとして利用したものである。そして夕方になり、水族館が閉館するとともに2階、3階のスクリーンは引き上げられ、ライトアップされた展示室内部や、大水槽の中を泳ぐ生物などが埠頭から眺められる。こうした装置に彩られた水族館のガラス壁面は、前面の修景池に映って明滅し、夕暮れの埠頭の魅力あるイルミネーションとなる。

本施設が水族館として特徴的なのは、暖流と寒流が出会う「潮目の海」として豊かな環境を持つ福島の海を表現するために、そのシンボル的展示として、暖流魚の「黒潮水槽」と寒流魚の「親潮水槽」からなる「潮目の大水槽」の設置が決定されていたことであり、これにマングローブやサンゴの生態を再現した南の海の大水槽、ラッコやトドなどの泳ぐ北の海の大水槽などが加わって大規模な生態環境の展示が提案されていた。

水族館へは、ガレリア吹抜けの2階から、チューブの中の自走式歩道によって移動する。採光のための開口を持たない暗いトンネルの中は展示への導入空間となっており、進むにつれて、映像や光によって原初の宇宙・生命のイメージが展開される。

チューブ通路を出た最初は、プロローグ展示のコーナーである。楕円体の曲面シェルから成る水族館棟の端部に位置するこの空間には、強い曲面の壁に沿う上下への吹き抜けが面し、その中に地球と生物の関わりが浮遊展示されている。太古からの生命の展示が展開されるこの空間から岩のトンネルをくぐり抜けると、次は上方のガラスブロック開口から自然光が降り注ぐ「福島の川と沿岸」のパノラマ展示である。上流の阿武隈山系から始まり、木々の茂るパノラマを下流へと巡る展示の最後は福島の沿岸部であるが、ここから空間は広がって吹抜けの中の「海の回廊」展示へと続いていく。ここには多くの小水槽が面し、海の育んだ文化や、海に関する科学についての実験的な展示が行われ、吹抜けを見上げれば3階に繰り広げられる3つの大水槽、北の海のラッコ水槽、南の海のマングローブ水槽、「潮目の大水槽」を見渡すことができる。寒い海と暖かい海、その双方が入り交じった海の3つを一望するこの空間は、寒流と暖流の接点に位置する海を持つ福島を象徴的する空間と言える。

順路はそこから、親潮・黒潮それぞれの魚の個別水槽を巡り、建物から弧を描いて突き出したスパイラルエスカレータによって3階へと導かれる。修景池の上空を回り込んでアプローチする3階は、大ガラス面のただ中に突入して行くかのような印象を与える。ガラス面にほとんど接するように「潮目の大水槽」が位置しているために、このアプローチは水中に進入していくようにも感じられ、そしてエスカレータの先には、ヴォールト状のアクリルによる「潮目のトンネル」が水槽を貫いて水中を走っている。

この「潮目の大水槽」は、ひとつの水槽でありながら寒流魚と暖流魚が同時に泳いでいる。棲息できる水温の違いから本来共存できない魚であるが、水温による海水密度の差異と循環流速の調整により、トンネルの上部を境として、冷たい親潮の海水環境と暖かい黒潮の海水環境を入り交じることなく併存させ、まさに水槽内に「潮目」を再現したものである。そのためアクリルのトンネルを通る見学者は、ひとつの水槽の中で右手に親潮の魚、左手に黒潮の魚を同時に見ることになる。

トンネルを抜け、吹抜けに面するデッキから「潮目の大水槽」をあらためて見た後は、「北の海」の展示へと続く。ラッコ、アザラシの生態展示やオホーツクの魚の小水槽を見るうちに通路はスロープになって上昇し、やがて大水槽を泳ぐセイウチやトドを横目に水面レベルへと上がって行く。そこが4階の、日光あふれるオーシャンアトリウムである。

オーシャンアトリウムはガラスブロックによる屋根と大ガラス壁面を持つ大きい空間であり、通路とほぼ同レベルに水面が続いている。ひとつの海原とも見えるこの水面には、はじめにセイウチ、トドの岩山を、そしてかなたに熱帯魚の泳ぐ海とマングローブの森を見渡すことができる。実際には「北の海」「潮目の海」「南の海」の3種5水槽の上部をひと続きの水面として見せ、グローバルな大海原として表現したこの空間は、それぞれの生物の棲息環境を確保するため、室温の分布に大きな変化が付けられている。室温は「北の海」では約5℃、「南の海」では30℃以上に設定(いずれも動物棲息エリア)され、見学者は極地を連想させる冷気の中から蒸し暑い熱帯の展示へと、気温変化を体感しながら移動していく。全体をひとつの海、ひとつの空間として表現するためにこうしたゾーン間でも間仕切りは設けず、極低速の冷気吹き出しや床面からの暖房、また壁面に沿う気流調整などの空調システムによりこの極端な温度分布を実現している。「潮目の大水槽」と同様、こうした冷温併存の環境を体験することにより「福島の海」の特性を興味深く印象付けられるのではないかとの意図であった。

ガラスの大カーテンウォールを通しては阿武隈の山並みが眺められるが、このガラス面は北向きで、直射日光が入らないよう配慮されている。また展示空間であると同時に、通常の水族館では隠されている水槽メンテナンスヤードも兼ねるこの空間は、水槽への給餌や清掃の様子も見学することができ、水族館施設に対する理解を深める場所ともなっている。

断面図
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展示順路はオーシャンアトリウムの中、マングローブの木々の根本に戯れる熱帯の魚を見るうちに徐々にスロープで下がり、やがて同じ水槽を水中からのぞき込む形となる。サンゴの海を見ながら下の展示室に至るとそこには熱帯の魚の小水槽が並び、さらにスロープを下ると2階の「海の環境情報センター」に出る。ここではタッチングプールで海の生物に触れたり、海洋の情報を得ることで環境問題を考えるなどの場となる。ここからの帰路は再びチューブの中の動く歩道で、ガラスの透明な筒の中を、下の修景池や海を見渡しながらエントランスホールに戻って行く。

こうした展示動線は主としてスロープで上下階が結ばれ、エスカレータも車椅子に対応させている。これにより車椅子の人でも、予備的なエレベータを用いることなく、一般と同じ展示動線を進むことが可能となっている。

この施設は構造デザインをオーヴ・アラップ社が担当し、共働してそれぞれの空間、架構のデザインを行った。

ガレリアは柱・梁によるT字形の架構が連続するデザインであり、魚の骨格をイメージした。またこれに連続するホール・研修室の空間はダブルキャンチレバーの鉄骨構造によって支えられ、大空間を作っている。これによって研修室の壁は全て可変の間仕切りとすることができ、多目的ホールや映像シアターと連動した多様なイベント利用が可能となっている。

水族館棟の外殻はコンクリートの曲面シェルであり、100mm厚の壁による無梁の構造とした。屋根と一体となる外壁の防水面から必要な、スムーズな曲面形状が作られる他、内部では曲面に包まれた大空間を生み出し、建築的な空間の魅力を増している。


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