巻貝の棘
多くの貝類が殻に棘を形成します。棘は外套膜が針状に変形して形成されます。殻口縁で形成された半管状の突起が後で管状に閉じられる様式が一般的です。
棘の機能は2つ考えられます。(1)防御:棘が伸びた範囲には捕食者が殻の内部に近寄れなくなり、動物体は捕食を逃れることができます。(2)殻の安定:多くの棘はある平面に沿う形で形成されます。棘の向きによって殻を海底面に対して安定させることができます。
腹足類ではアクキガイ科Muricidaeに顕著な棘が見られます。ホネガイ類Murex(図IX、2-26)は最も多くの棘を発達させています。その他にもサザエTurbo(Batillus)cornutus、リンボウガイ類Guildfordia(図IV)、アザミガイAstralium henicus、カタベガイ類Angaria(図2-27)、ハリカノコガイClithon coronatus、クモガイ類Lambis(図2-28)、モミジソデガイ科Aporrhaidae(図2-29)など多くの貝類が棘を発達させています。
リンボウガイ類の棘はほぼ螺層の周線に沿って放射状に形成されます。この棘の存在により貝はひっくり返りにくくなります。同様の形態はクマサカガイ類にも見られます。顕著な例はカジトリグルマStellaria solaris(図2-30)です。他のクマサカガイ類Xenophraは自らは棘を作らずに、貝殻や小石を放射状に付着させて同様の形をつくっています(図2-30)。このように低い円錐形で放射状の棘をもつ形は軟らかい海底上で殻を安定させる機能を持つと考えられます。
ホネガイ類、サザエ、リンボウガイ類では成長途中で棘が邪魔になります。そこで、成長時には棘を再吸収(resorption)して取り除きます。リンボウガイの螺層には切り落としたあとの基部だけが残されており、縫合(suture)が歯車状になります。一方、アザミガイの棘は螺層の上側にあるため成長の邪魔にならず、棘を切らずに成長します。
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