− 坂村 健 −
使われているキャッシュカードやクレジットカードは磁気カード (Magnetic Stripe Card) と呼ばれ、オーディオ/ビデオテープと同様な磁気ストライプがカードに貼られており、磁気情報の形でデータが記録されている。価格は1枚あたり数十円と安価だが、記憶容量は数十文字に限られる。ICカードは磁気ストライプの代わりにカードに集積回路 (Integrated Circuit,IC) を埋め込んだものであり、価格は1枚あたり数百円以上はするが、記憶容量は最低でも数千文字と大きい。ICカードの中でもマイクロプロセッサ(とメモリー)を埋め込み、それ自身でプログラム処理を行うことができるカードはスマートカード (Smart Card) と呼ばれている。
磁気カードはキャッシュカードやクレジットカード以外にもテレホンカードやパチンコカードあるいは鉄道カードなどでの料金前払い(プリペイド)カード、また商店街における買い物ポイントカードなどに広く使われてきたが、セキュリティメカニズム(不正使用防止システム)の不備による偽造や不正使用があいつぎ、経済的損失が無視できなくなっている。磁気カードに代わって、ICカードまたはスマートカードを用いると、
- 磁気カードよりも記憶容量が少なくとも100倍以上。
- 磁気カードよりも偽造/不正使用が困難。(情報をICの中に閉じ込め、情報を暗号化することが可能なため)
- 磁気カードよりも高価だが犯罪を抑制できる。
といった効果がある。ICカード発祥の地である欧州では、テレホンカード、銀行カード、クレジットカードなどに広く使われているが、日本や米国では普及はまだこれからである。
磁気カードは磁気カードリーダ/ライタという機器により磁気ストライプ上の磁化の方向を感知したり変化させることにより外部と情報をやりとりするのに対し、ICカードはICとの間で電気信号をやりとりする電気端子を持つICカードリーダ/ライタという機器にカードを差し込んで外部と情報をやりとりする。この電気端子は数多く抜き差しすると接触不良になる可能性が高い。このようなICカードを接触型ICカードという。これと別に、ICカードとICカードリーダ/ライタの間を電磁誘導や光、電波など無線により情報交換する非接触ICカードがある。これだとリーダ/ライタにカードをかざすだけで済み、差し込む必要もなく、接触不良の心配がない。
非接触ICカードにはリーダ/ライタとの距離により、表1のように分類できる。
距離により、周波数や用途が変わる。また非接触ICカードは電池が必要なものと不必要なものに分かれるが、現在、外部から無線でエネルギー供給を受け、取り替えの手間が必要無い電池無しが主流である。情報と電力の転送に電磁誘導方式 (Inductive Coupling) が幅広く使われるが、密着型では静電結合方式 (Capacitive Coupling) が使われることもある。マイクロ波型は自ら電波を出し、電池が必要である。なお、カードの形をしていない非接触カードはRF-ID (Radio Frequency Identification) と呼ぶことが多く、工場の製品管理から家畜の管理にまで使われている。一般には非接触データキャリアと呼ばれ、モノに密着させてモノとそのモノに関する名前や情報との対応をとるために多くの分野で使われている。デジタルミュージアムではこれを、電子タグとして用いて、展示物をコンピュータが識別するために利用している。これにより博物館にとっては収蔵物の効率良い管理が行えるほか、展示物を来館者にあわせて効果的にみせるなど多くの可能性が生まれたのである。
表1 /TD> 距離 規格 周波数 用途 密着型(Close Coupling) 数mm以内 ISO/IEC 10536 4.91MHz 決済、悪環境 遠隔型(Remote Coupling) /TD> /TD> /TD> /TD> 近接型(Proximity) 数mmから数十cm以内 ISO/IEC 14443 13.56MHz 乗車券、身分証 近傍型(Vicinity) 数cmから1m以内 ISO/IEC 15693 13.56MHz FA,物流 マイクロ波型 数十cmから数m 未定 2.45GHz FA,物流