特別展示によせて

東京大学埋蔵文化財調査室室長
東京大学人文社会系研究科教授
今村 啓爾



 東京大学本郷構内では、一九八三年以降、施設整備に伴う埋蔵文化財の調査が活発に続けられています。当初は臨時に設けられた東京大学遺跡調査委員会のもと臨時遺跡調査室がこの業務にあたっていましたが、一九八九年に埋蔵文化財調査委員会が設立され、一九九〇年には諸規則を整えた埋蔵文化財調査室が正式発足し、その業務をひきついでおります。

 このたび、埋蔵文化財調査室の設立十周年にあたり、総合研究博物館とともに調査成果を展覧する機会が得られましたことは、喜びに堪えないところです。これまでの発掘調査の実施にご協力いただいた関係各位はもとより、展示の実現のためにご助力いただいた方々に篤くお礼申し上げます。

 構内でこれまでに実施してきた発掘調査は五〇件以上におよびます。本展では、発掘の中心部分をなす加賀藩本郷邸の出土品を中心に江戸時代の遺物約七〇〇点を公開いたします。それには、幻の御殿といわれた梅之御殿(御殿下グラウンド地点)、あるいは徳川秀忠らの御成関連遺構(医学部付属病院地点)、さらには赤門を出入りの門とした溶姫の御殿(経済学部南、総合研究棟地点)など、歴史的にきわめて重要な遺構の出土物がふくまれております。

 遺跡の発掘は出土物の研究と不可分のものです。今回の試みは、考古学、文献史学、建築史学など関連分野の研究者の協力を得て、江戸の巨大大名屋敷の構造と機能を分析した研究成果の展示でもあります。

 各部局施設が老朽化し、かつ狭溢化した現状をみるにつけ、本郷キャンパスに再開発が必要なことは誰の目にも明らかです。一方、地下に眠る貴重な文化財の適切な保護、記録の必要性もまた明らかです。早急な開発を望む関係者にとっては、時間と費用のかかる遺跡調査は負担のようにもみえるところですが、その積極的な実施は、都心の一等地にありながら恵まれた歴史的環境の中で学問を続けることを許された者の責務であると考えます。

 この展示が、東京大学が有する埋蔵文化財の重要性をあらためてご理解いただく機会となることを期待いたします。




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