「加賀殿再訪—東京大学本郷キャンパスの遺跡」展開催にあたって

東京大学総合研究博物館館長
東京大学大学院総合文化研究科教授
川口 昭彦



 「加賀百万石」といわれた加賀藩は、江戸幕府にあっては徳川家に次ぐ大藩でした。加賀藩主前田家は初代の利家以来、歴代藩主が文化事業に深い関心を寄せ、加賀友禅や蒔絵などのすぐれた工芸品を世の中に送り出しただけでなく、藩士を中心に儒学を奨励し、能楽も宝生流を保護し、独特の文化を育みました。東京大学本郷キャンパスは、北陸の雄藩にふさわしい豪華な屋敷が建設された江戸時代の加賀藩上屋敷の跡地を引き継いだものです。一九八〇年代になって、新しい学問の進歩に対応できるキャンパス再開発の動きが活発になってきましたが、これに先立ち埋蔵文化財発掘調査が積極的に進められてきました。この結果、栄華を極めた百万石の大名屋敷がその往時の姿を次第に現しつつあります。

 大名屋敷は単なる邸宅以上の構造と機能をもっており、大都市江戸の中でも独特の生活と文化の空間を形成しておりました。本展示は、屋敷とそこから発掘された莫大な歴史的文化財を一堂に集めて初公開し、当時の加賀江戸藩邸で繰り広げられた大名の生活・文化を再現しようとするものです。

 また、本郷キャンパスには、加賀前田家に徳川将軍家から溶姫が嫁いだとき建立された赤門、育徳園とその中心にある心字池(三四郎池)など、現在でも加賀藩ゆかりの遺跡が数多くみられます。総合研究博物館の展示をご覧になった後は、本郷キャンパスを散策されながら加賀藩の栄華に思いをはせていただきたいと思います。

 キャンパスの遺跡の調査ならびに出土品の管理は、東京大学埋蔵文化財調査室によって行われています。本展示は、調査室設立十周年を記念して同調査室と共同で開催するものです。一連の発掘作業は文化財保護法に基づいて実行されましたが、本年は同保護法が施行されてちょうど五〇年を迎えますので、これを記念して文化庁にも共催をお願いいたしました。また、展示品の一部は、格別のご配慮により財団法人前田育徳会から借用いたしました。

 最後になりましたが、本展開催にあたり多大なご協力を賜った財団法人前田育徳会をはじめ、関係各位に深く感謝申し上げます。




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