[ニュースという物語]


花井於梅酔月奇聞

明治二十年十二月、栄泉堂国立国会図書館蔵
『花井於梅酔月奇聞』というタイトルの単行本は、上下二冊を和綴じにしたものやボール表紙本など数種が残されている。表紙絵と口絵が異なる以外は、本文前半に『東京絵入新聞』の「梅雨衣酔月情話」を挿絵とともに流用し、後半に同紙上の公判傍聴筆記をこれまた挿絵もろともそっくり拝借して一編に仕上げている点ですべて共通する。

花井於梅酔月奇聞
図285

 

花井梅女公判傍聴筆記

明治二十年(一八八七)十二月、精文堂
国立国会図書館蔵
二葉の挿絵のうちひとつが、栄泉堂版『花井於梅酔月奇聞』に見える裁判所前の図に酷似する。しかし傍聴筆記は大意を同じくするのみでまったくの異文となっており、別の速記者によって書き取られたもののようである。

花井梅女公判傍聴筆記
図286

 

月梅薫朧夜筋書

『歌舞伎新報』八百九十三号、明治二十一年(一八八八)四月二十八日
東京大学法学部附属明治新聞雑誌文庫蔵
公判の申し渡し以前に事件を上演することが禁じられていたために、「月梅薫朧夜」は正本の完成が報じられてからも、度重なる延期のあげくに一時は狂言の差し替えさえ噂された。お梅の哀訴棄却で裁判が終結すると、ただちに『歌舞伎新報』に筋書が連載された。

月梅薫朧夜筋書
図287

 

月梅薫朧夜・化粧鏡写俤

国周画
東京都立中央図書館特別文庫蔵
「月梅薫朧夜」は明治二十一年四月二十八日、中村座で初日を迎えた。関係者への聞き合わせをするなど、このときも凝り性を発揮した菊五郎の演じるお梅は、巳之吉(峯吉)殺しの場から自首までの愁嘆場を「演劇と思はれざる程なり」と評された。

月梅薫朧夜・化粧鏡写俤
図288


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