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[ニュースという物語]


江戸前鯰大家破焼

江戸前鯰大家破焼
図172

東京大学地震研究所蔵
十丁の仮綴本。各丁に挿絵が入る。江戸前鯰大家破焼は、蒲焼に懸けてある。当時の道化物のかわら版でも、鯰を懲らしめるために、蒲焼にするという趣向のものはよく見られた。口説節をもとに、江戸の各所の被害を謡いこむ。

江戸前鯰大家破焼

安政二卯年
江戸大地震並出火付
都会の街(ちまた)にちしん番(はん)あれとも
天災(てんさい)ハのかるる事難(かた)く用ひされハ
大鯰も大道(たいとう)に蒲焼(かばやき)となりもちゆる
時ハ地中に尾鰭(をひれ)を動かして世界(せかい)をふるふ
かぐつちの神これか為におさきにけれあれ出し
たるちうつ腹(はら)火の用心さつしやりませう△
△身の
用心
身の用心
としかいふ
安政二乙卯歳
市中隠士
大道散人誌

 

 

江戸前鯰大家破焼
「およそサエエ日本六十四余州(よしう)せかい
ひらけて鹿島(かしま)の神のすへたかんじん
かなめの石も時としせつハさて
ぜひもなやころハ安政二ツのとしの
かミハ出雲へおるすをめかけ
大地八万ならくのそこに
いけたなまづのまたうこめきて
いかりてつよきこんとの地しん
夜るの四ツ時にわかのさハぎ
お江戸三千六百余町四里と
四方をミなゆりくつしとこと
かぎりハあらおそ
ろしや北ハせん
じゆにまた◇
◇こつか原西ハ
しんじゆく
いたばし
かけて
ひがし
ふなバし
南の
かたハ
こいの
ミなとのしな
川までものこる「つきへ」
 
「つづき」のこるかたなき地
しんのさハ
ぎをひもわかきも
たたいちどうに火事よ
地しんといふ間も
あらで天地しんどう
かぜなまぐさくすなを
ふきあげ小石(こいし)をふらし神社仏閣(しんしやふつかく)
堂宮(とうミや)がらんのきをならべしその
家蔵(いへくら)ハこなのことくに皆(ミな)飛(とひ)ちり
てくづれかさなる音(おと)すさましく右よ
左(ひだ)りとにげゆく人ハおやをうし
ないつま子にわかれさきのゆく
ゑもあらなさけなやはりに
うたれてかしらをくだきかべに
うづまれ身骨(ミほね)を折(を)られ
まなことびだし血へどをはいて
死(し)ぬる今わの
身ハほととぎす
こゑもかれ野になく虫(むし)よりも
ほそき命(いのち)やあさ日の霜(しも)と
きへてゆく身のかなしさこハさや
かれくづるるその町かずをここに「つきへ」(中略)

 

地震やくはらひ

東京大学地震研究所蔵
三丁の仮綴本。厄払の唄に地震騒ぎを五点謡いこむ。一は、大名づくしで大名屋敷の被害、二は、地震で野宿する光景、三は、鹿島明神が地震鯰を取り押さえる場面を、四は、三職(大工、左官、鳶)など地震で儲かる職人の活況を、五は、吉原が焼き潰れたので、他の場所に作られる仮営業所(仮宅)の繁盛を謡う。

地震やくはらひ 地震やくはらひ
図173

地震やくはらひ

地震
やくはらひ
板本高亭
諸志作
「アアラめでたいなめでたいな大名づくしではらひませうすぎし二月の
御祝義にまちやしきも酒井なくくづれけりし森川や焼てくづれて
身ひとつのからだハ手ぶり小笠原いへも古蔵も内藤や
妻子にはなれ遠藤の土屋かハらのなかよりも堀田を
ミれバぬらくらとこれが鯰にハられうかたまたま建部で
井上のいへに郷人が稲葉さまかほハ青山あつがんの
榊原にてやうやうと丸太を甲斐さま戸田さまに
かこひの板倉ぶつつけてすこしこころハ安藤の鍋島
ならで鹿島なる神のおたちハ出雲さまやがて帰国の
御参府で世の中しづかにのりこえハさつても目出
たき行列をなまづやろうがゆりこんで供さきやらん
とするならバ石でおさへがとんで出どうづきもどきでづしりづしり
「アアラねむたいなねむたいな今ばんこよひのぐらつきに身の用心
とまハりませう一夜あくれバはるならで十月二日さんが日
お門にたてたる松丸太竹のはしらや生死のせうじを
かべのとびじまゐ鯰くハづにようようとにげて野宿を
するがなる富士より高い土のやま命あつての物だね
もはなしのたねとなるかミや親死と火事とぐらつきハ
もふこりこりと信濃なる善光寺にハあらねども
うへから落たうつばりの牛に引るる身のつらさはやく
鹿島へお飛脚をたのむハ留すのゑびすどのかへすがへすもゆり
かへし誓ハかたき要石おおさへおおさへ悦びのおさまる御代ハこんれいの
四海なミ風しづしづといろ直しから大ししんひるもたんすのくハんが
なる所へぬらつく外道めハ焼ハら峠の絶頂から津浪が沖へさらりさらり

 

安政見聞誌(上・中・下)

東京大学地震研究所蔵
安政江戸地震の際に出た災害ルポルタージュの一種。安政二年の地震の翌春(安政三年三月過ぎ)に出版されたが、発禁本となる。版元所払い、作者、彫り、摺りの関係者は罰金五貫文であった。作者は仮名垣魯文・二世一筆庵栄寿であったが、魯文は名前を表していなかったため、処罰を免れた。発禁の理由は、内容の風刺性よりむしろ、無届出版という統制逃れをあえて承知で行なったことにあるらしい。

安政見聞誌 安政見聞誌
図174


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