東京日々新聞 第八百七十六号
(秩父で起きた怪現象に剣豪も退散)
茶釜ややかんが浮かび上がる、毎夜石が飛んでくる、何事もないのに衣類調度が焼けこげる、寝ている間に刃物で切ったような傷が出来る等の怪奇現象を、狐や狸が化かしているのだと片づけているのは、文明開化の世に苦しい弁明だが、科学で説明の付かない不思議な現象に魅入られるのは現代も同じであろう。
東京日々新聞 第八百七十六号
絵巻物の百鬼夜行ハ筆頭の怪にして赤本の/重ひ葛篭ハ欲の化たるなるベしいつの頃乃/御布告にや野夫と変化ハ函根から先の住居/と世俗一統承知の上で境界が定まり往古ハなんでも/鬼の業と極ておき、少し開た中古ハ狐狸の外ハ一切化べからずと規則が定り。今ハ/中々幼童さへ。モモンガアとおどしても。其手ハ食ハぬ開化の 聖代。野良頭が散髪に/化たが初発で電信蒸気。練化造りと追々開け悉皆有用人智の化もの/無用の怪異厳禁の中にどうした間違歟地名ハ武州秩父在横瀬/村の農民鉢山権右衛門と言ふ者の居宅ヘ何者とも知れず/毎夜礫と打込むのミか飛だ茶釜が野鑵迄天井裏ヘ/引揚し怪事に人々驚しを其近傍の剣客者/飯塚某是を聞見顕さんと/立越て主人に対話の/折柄に一ツの大石/飛来り頭上を/かすりて後背なる/大釜徴鹿に打砕/けバさすかの飯塚仰天なしほうほう/其場を逃帰りしが怪事ますます止ざり/ける是ハ開化を怪化と見誤りし狐狸の手段/なるべし
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