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インタラクティブステーション

Bernard Tschumi


マルヌ・ラ・ヴァレの建築の学校では、様々な教育プログラムが一貫した考え方の下に、整備されていますが、その教育の場であるスタジオ、教室、管理機能などの施設は、「自由な」広い空間に配置されています。この空間は学生がいつでも利用でき、また、どんな突飛な行事も自由にそこで開催できるようになっています。さらに、ここは、学校の中心的存在としての役割も担っています。

このような自由な考え方を反映した建築物を作る際、それをどうやって設計図上に表現すればいいのでしょうか? 従来の建築設計図では、複数の視点から眺めた場合の建築物の姿や、時間の経過による光の変化、また、その空間に立った時、人がどんな動きをするのかを表すことはできません。しかし、コンピューターアニメーションを使えば、実際にその空間の中で起こりうる様々な動きを表現できるばかりか、インタラクティブ・ステーションを通すと、観察者は、その建築物の姿を好きな角度から眺めることができます。また、空間の中を自由自在に動き回る擬似体験をしたり、アニメーションを操って、あらゆる角度から空間を描き、画面に繰り広げることもできます。このようにしてできた様々な形の設計図が集まって、一つの建築物の姿が出来上がるのです。設計図の中に人の動き(動線)を重ねる手法は、全く新しい表現形式で、このような設計図の特徴でもあります。

CG画像
image1: "amphitheater lighting studies"

フランス、マルヌ・ラ・ヴァレの建築の学校

アーバニズム

1.1 パリから離れること30分の郊外に立つ、新しい建築の学校を思い描いてみてください。二つの疑問が浮かぶと思います。一つ目は、建築学教育の方向性 —— これから先、それはどんな方向に向かっていくのか。そして、二つ目の疑問は、郊外立地ならではの魅力。人、経済、文化が集中する大都市から離れた環境に、どんな魅力があるのか。

1.2 今日、3つの大きな変化 —— 情報革命、学問間の垣根を超えた交流、イデオロギー革命 —— が同時に起こっています。シャン・スール・マルヌは、パリの中心から30分離れていますが、コンピューター通信を使えば、ロンドン、ベルリン、東京、ニューヨーク、デリー等どこへでも、パリにいる場合と同じようにアクセスすることができます。ここにいても、世界中の建築文化と情報が手に入るのです。違うのは、田舎にあるということだけです。

1.3 これまで、学問や教育、討論の場所を求めて、人は大都市に向かいました。しかし、ここシャン・スール・マルヌでは、これとは全く反対のことが起こっています。人が大都市から流れて来ているのです。これは、ある意味では、社会の主流から外れようとする行動と言えるかもしれません。しかし、郊外という大きなハンデにも見える条件を、逆手にとることもできるのです。立地上、歴史ある大都市を保存するというような固定観念にとらわれる必要もなく、また、新しく2万人の学生を擁する技術複合都市(テクノロジー・コンプレックス)の真ん中に立つこの学校は、これからの学校の先駆的存在と言うことができるでしょう。

1.4 この新しい学校を作るにあたって、私達は、流動の時代とも言える現代にふさわしい空間をデザインしようと考えました。伝統あるフランスのエコール・デ・ボザール、ドイツのバウハウス、または、アメリカの大学などにも着想を求めることなく、新しいタイプの建築学校を作ろうとしたのです。

1.5 私達の計画は、次のようなテーマから始まりました。「建築様式そのものではなく、この場で将来何が行われるか、それを常に念頭において設計を進めよう。きっとそこには都市生活の凝縮した形が生れるはずだ。ここの空間の可能性を設計計画の中に大いに採り入れていけば、現在、進行中の文化・社会の転換を一層推し進めることになるだろう」

夜のパティオCG画像ホールCG画像
image2: "night view of patio"
image3: "view of hall looking west"

建築

2.1 私達が「建築の街」と名付けたこの場所には、大規模なセントラルホール(25×100m)があります。この広場は、自由な発想のもと、どんなイベントにも対応可能なように作られ、その周囲には活気がみなぎっています。驚かれるかもしれませんが、その広い空間は、各種祝典、舞踏会、会議、講演会、映画館、音楽祭、シンポジウム、前衛芸術の展覧会など、あらゆるイベントの会場として使うことができるのです。社会・文化の中心として、セントラルホールは、学校の中心的存在と言えるでしょう。また、参加者の少ないイベントがある日でも、ホール周辺にはいつも学生の姿があり、生き生きとエネルギッシュな雰囲気を醸し出しています。

2.2 学校としての機能や教育関連施設は全て、大きなビルの中に集まっています。スタジオ、アトリエ、コンピュータールーム、メディアテック、教職員室、事務室、研究室などの施設は、文化活動の中心を担うこの広いセントラルホールを取り囲むように、並んでいます。

2.3 ビル全体を探索して歩くこともできます。どこから歩き始めてもいいのですが、主なスタートポイントは二つあります。一つはデカルト棟との連絡通路がある南側の階段と、もう一つは西の方に下がっていく通路です。正面玄関(南)を入ると、受付と展示・閲覧室、レストラン・バーがあります。そこから斜めの方向に歩いていくと、400席のアンフィシアターがあり、それを越えると審査室とスタジオがあります。このほかにも、階段を使って近道をすれば、研究室や事務室、スタジオへ行くこともできます。また、セントラルホールの地下からは、事務室や教職員室を抜けてスタジオに直接つながる通路もあります。

インタラクティブ・ステーション
image4: "interactive station main screen"
2.4 交通手段は車が便利です。車で「建築の街」に到着した方は、ホールの中庭を抜け、敷地内の駐車場に車を止めてください。

2.5 セントラルホールからは、スタジオの中の様子をのぞくことができます。学生が研究課題制作に取り組む様子や、学生の活動 —— 情報交換、意見交換、ディスカッション —— を見守る教師の姿が垣間見られることでしょう。スタジオは南側(セントラルホール側)と北側にあります。北側といえども、常に光が入るように工夫され、建築デザインの手法として、最近どんどん採り入れられているコンピューターを使う時も不自由することはありません。

2.6 受付とロータリーは3階と4階の間にあります。階段を上った、スタジオのすぐそばです。また、室内庭園が、審査室、生徒作品展示スペース、アンフィシアターを貫いて、10階と11階の間まで続いています。このような自然環境との触れ合いも、この学校の魅力です。

2.7 ロフト階にあるスタジオスペースとアトリエは、25人、50人、75人と学生の数に合わせて選べるように大小様々な規模になっています。セミナールームとピンナップルームはスタジオとスタジオの間にあり、場合によりどちらの目的にも使うことができます。また、そこではデザイン設計の専門家と歴史・理論の専門家の間で活発な議論が行われることもあります。

2.8 南のファサードの小さな一角には、教職員室や、研究室、事務室が並び、画一的でお役所的な雰囲気を出さないような造りに工夫されています。

2.9 「建築の街」は、都市環境や電子機器に象徴される現代の合理主義に警戒感を抱いているだけではありません。審美的傾向や表面的な道徳を重んじるヒューマニズム的考え方にも、同じく慎重な態度をとっていかねばならないと考えています。21世紀の建築のあり方を問うのに何が必要なのか。この答を見つけるのに、独自のプログラム理論を徹底的に展開していきたいと思っています。


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