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時間を継ぐ長寿の空間

今川憲英・T.I.S. & PARTNERS


時間を継ぐ長寿の空間

— 素材と架構 —
可能と不可能の差・・・この100年人は何を成し得たか

人はこの100年間に様々な分野において発達してきた。地球を取り巻く環境においては、宇宙探査、深海探査に成功した。又、身体に関しての発展は著しく、臓器の移植や体外受精、遺伝子操作が行われ、クローンも誕生した。

そして社会環境は多用な発展をしてきた。メディアの拡大で、世界中が同時に映像と音声を介して話せる様になったり様々な情報の入手が容易となり、情報が凄まじい速さで駆け回っている。原子力の利用で莫大なエネルギーが生産される一方で兵器としての開発も進んでいる。

マイカル三田ポロロッカ
マイカル三田ポロロッカ

世紀末までに、瞬間移動、時間移動や人間以外の生物との会話、予知、読心あるいは不老不死、死人の蘇生など成し得ないと思われるが、100年後には可能となっているかもしれない。

建築のフィールドも様々な発展をしてきた。人が住み使用する空間は、使用するその時間にタイムリーな対応が可能となる空間、また建築として永く時間を刻むことのできる空間であるのが望ましい。その時々にタイムリーに対応することは建築の永遠のテーマといえる。そして建築の長寿=《スペースの長寿》を身近なものにするために人々は、自然との関係においてその時代時代で数多くの試みを行ってきた。人や技術を中心に自然を活用、利用し自然と共存したり、移動住居生活の様に自然にあわせることで共存を図るなどして居住空間を築いてきた。その一方、自然を破壊し操作して、自然に抵抗もしくは自然を支配して人の使用空間を拡大してきてもいる。

建築のフィールドにおいての可能と不可能の差

建築において人は今、何ができるか

  • より高層なものがつくれるようになった
  • より大スパンのものがつくれるようになった
  • ガラスの構造物がつくれるようになった
  • 地震に耐える建物がつくれるようになった
  • 素材を生かした建物がつくれるようになった etc.
  • 建築において人は今、何ができないか

  • 永遠にこわれないものをつくること
  • 容易に建物を移動すること
  • 建物の解体時に廃材を出さないこと etc.
  • リサイクルパビリオンリサイクルパビリオン
    リサイクルパビリオン
    リサイクルパビリオン

    空間の変態

       
    空間のタイムリーな対応    
                   } により不可能から可能な空間へ    
    素材を生かす

    変態点(あるものが違う意味をもつものに変化するキッカケ)

  • 温度変化による
  • 固体→液体→気体
  • 遊牧民族の移動住居を持つ人々の生活の変化
  • 渡り鳥、魚、昆虫の移動/冬眠 etc.
  • 衝撃による
  • ニトログリセリン等の反応
  • 筋肉の反応
  • エアバックの作動
  • 高層建築物の免震、制震システムの作動 etc.
  • 時間経過による
  • 老朽
  • 成長
  • 自然、地球の変化
  • リサイクル etc.
  • 融合による
  • 核融合エネルギー
  • 2H2+O2=2H2O
  • 男女→夫婦/子供/家族/社会/自然
  • 食物/料理 etc.
  • 20人の建築家によるマカロニ展Architects Garden '95
    <HE AND SHE>(20人の建築家によるマカロニ展)<HE AND SHE>(Architects Garden '95)

    空間の変態 — 建築の変態

    それは夢の世界かもしれない。空間の変態とは、何かのキッカケによって空間自体がフレキシブルに対応し、本来の姿とは異なったり、又は空間の性質が異なり、人や社会に対し違う意味の働きをすることである。

    この空間や建築が変態するということは、ひょっとしたら、多岐にわたる技術の開発、発展、融合により、架構、素材自身がタイムリーな反応をするということかもしれない。例えば地震による衝撃や火災による温度の変化に反応して接続部が一瞬にして硬くなったり、普通の壁が硬い壁に生まれ変わり、そして一定期間の後、もとの姿へと戻る。そこでは粉末と気体、液体と気体、粉末と液体の化学反応を再認識することで空間の変態を再発見できるかもしれない。

    空間構造においては、架構、素材自身のリサイクルも空間を長生きさせることにつながる。人類はたとえばゲルの様な移動住居を考案し、自然に対し解体、組立を行う変態空間を持ってきた。移動住居のように解体、組立が容易なものは、部分的な取り替えや修繕により半永久的にその空間を維持できる。少し視点を変えて現代建築にも応用すると、主架構を全面解体することなく、建物としての命を存えることができる。主構造や部分構造の取り替えと補強を容易にすることや、時間の経過と共にメインフレームがサブフレームと入れ替わることなどetc. が考えられる。

    空間の変態は現代のリアルな世界を超えられるものと考えられる。これらのことが実現されることで、人は不可能と可能の境界を超えられるかもしれない。

    しかし、《建築は人と共に生きる》ことを忘れてはならない。そして建築家の職能は人々と社会が共に変態することに生かされることであろう。

    INNOVATION IN STRUCTURAL DESIGN
    INNOVATION IN STRUCTURAL DESIGN

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