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ORBIT BAZZAR

大野秀敏


ORBIT BAZZAR
ORBIT BAZZAR
ORBIT BAZZAR
ORBIT BAZZAR
メテオリックマーケット
メテオリックマーケット
松代アパート
松代アパート
YKK滑川寮
YKK滑川寮
ORBIT BAZZARは「都幾川村文化・体育施設設計競技」の応募案である(1994年冬)。施設のプログラムは、人ロ約8千人あまりの山あいの村のための、総合コミュニティーセンターで、バレーボール・コート、柔剣道場、トレーニングジム、観覧席などを備えた体育施設と、図書館、デイケアセンターなどの文化、福祉施設、それにイベント広場および小公園の屋外施設を含んでいる。

ORBIT BAZZARには、少しよたっているがその名の通り、曲線を描くトレーニング用走路が幾つかの異種の施設を巡っている。このように、複合体を構成する要素群を結び付け空中で循環する通路を設定する方法を、これまでに本案を含めて4つのプロジェクト(「松代アパ一ト」(設計1989、竣工93)、「メテオリックマーケット」(設計;1991)、「YKK滑川寮」(設計1992、竣工94))で提案してきた。

この「空中環状通略」の特徴は以下の通りである。

  1. 閉曲線をなし、始まりと終わりが繋がっていること。
  2. 複合体を構成する諸施設を巡り、諸室の間を縫うように通過していること。
  3. 地面とは違うレベルで空中を走り、独自で強い形態が与えられていること。

建築の通常の通路は、多くの場合、最も短い距離で諸室を結ぶように構成され、肋骨の形や血管の系統などと似て、多くは建物の中心部を占め、放射状、樹状の形態をとる。そこでは、通路は目的の部屋で行止りとなる。だから通路を「散歩」することができないし、諸室を「梯子する」こともできない。

「空中環状通路」は、建築の周縁部を通り、散歩ができ諸室を「梯子する」ことができる。それは、東京の山手線やウィーンのリンクシュトラッセ、回遊式庭園の園路、公園の中のサイクリングコースなどに似ている。

方法としての「環状空中通路」

「環状空中通路」は、「松代アパート」や「滑川寮」のように主動線として重要な役割を担うこともあれば、このORBIT BAZZARのように、二次的な通路でしかないこともある。この通路は、複合体の全体の建築形態を一つのデザイン原理で「支配」する事を放棄し、構成要索の自立牲を相対的に高くするという構成原理と一緒に採用されることによって設計の一つの方法としての位置を獲得している。

「空中環状通路」は、失われた「全体」に代えて複合体に含まれる様々な場を経験する契機として用意されている。というのも、現代において、プロジエクトの全体性は常に「仮」でしかあり得ないと考えられるからである。この「都幾川村文化・体育施設」でいえば、体育館とデイケアセンターと図書館とを一ヶ所にまとめて建て、一つの複合体を構成しなければならない理由を、誰が説得力をもって説明する事ができるのだろうか。それは全く偶然とは言わないまでも、幾つかの「事情」の集積以上のものではない。このような弱い結合は、ある意味では現代社会における施設の特徴であり、そのような「弱い結合」に対して、「強い形態」を与える事は不適切である。「強い形態」は、ある意味で政治的ですらある。

しかし、複数の公共施般が固まって存在してしまうということもまた事実であり、この事実を前にして、その可能性をどのように発展させるかは建築家の責任といえよう。小規模な施般の複合は、施般の相互利用、共用化、計画されなかった機能の発見の契機を提供し、施設の有効利用の可能性を高める可能性がある。「空中環状通路」がそれを提供するはずである。

異種の施設の複合は、一種の都市的情況として扱うべきであろう。つまり、いろいろな目的と、動機を持った人達が、様々な時間帯に訪れる。このような多様性を受入れるために構築環境側が用意しなければならない物的特質の一つに「経路の選択性」がある。通常の機能的で骨格的な動線とは別に、「空中状通路」を設ける事によって、利用者は、都市の街路網を利用するように、一つの部屋や施設から他の部屋や施設に移動し、複数の経路から選ぶ事ができるようになる。

「空中環状通路」は、場に視覚の交差点をつくりだし、異種の運動の同時的存在を生みだすのである。


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