はじめに
東京大学イラク・イラン遺跡調査団は、1965年と1976年に「東亜及び日本古代文明の源流としての古代イラン文明」研究のため、イラン西部にあるターク・イ・ブスターン遺跡を本格的に調査した。シルクロードにある同遺跡は「帝王叙任式図」などの磨崖浮彫からなるササン朝ペルシャの遺産であり、その浮彫表現と日本の古墳~天平時代文化との類縁は古くから推測されてきたが、当遺跡の詳細が不明のため比較研究ができないままであった。そのため子細を報告した東京大学調査団の研究書『ターク・イ・ブスターン』全4巻(1969-1984)は、世界の考古学および美術史学者に大きく寄与するところとなった。今般、本遺跡資料の国際的な研究をさらに進展させるべく浮彫の精細図版をデジタル化しデータベースとして公開することとした。
まず、公開するのは、1965年調査の報告書『ターク・イ・ブスターン』1 巻(1969 年)および2 巻(1972 年)に所収された掲載図版および関連写真である。報告書に掲載された図版は、6×6 サイズのカラーポジによるカラー図版4 点と4×5 サイズの白黒ネガによる219 点から構成されている。これらを含むターク・イ・ブスターン遺跡の写真総数は1500 点近くあり、基本的な整理は半世紀以上も前になされているが、全体のリストは作成されていなかった。今回、デジタル化とともに正確なリストを作成した。
これらの写真は、風化がすすむ遺跡の半世紀以上も前の姿、そして昨今の政情不安にさらされている文化遺産のかけがえのない記録である。東西文化交流史上極めて重要な役割を果たした歴史遺跡であるターク・イ・ブスターンを美術史学、建築学の観点から組織的に撮影し、体系的に保管している機関は国内外にも見当たらず、利用申請が相次ぐ状況にある。関係研究者の便に供するのみならず、世界遺産として多分野にわたって進められているシルクロード研究自体の進展にも資するものとなろう。
本データベースの制作にあたっては令和6年度科学研究費公開促進経費(代表:西秋良宏、課題番号24HP8005)を使用した。
西秋 良宏
東京大学総合研究博物館
2025年6月