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共同プロジェクト

博物館とインスタレーション作法

近藤 圭


  東京大学学生と東京芸術大学学生との共同プロジェクト「物見遊山」のために、初めて小石川分館を訪れてからもう2年になる。赤と白のコントラスト、2階のテラスが印象的な外観と、本来の構造をいかしながら綺麗に整えられた内部とのギャップに驚いたのも束の間、そこに繰り広げられる骨、剥製、植物標本、建築模型、機器といった展示品のコレクションの数々に圧倒された。
  現代美術の世界では「サイト・スペシフィック」という概念がある。その場が持っている「特異性」との関係性においてインスタレーションなどの作品を成立させようというものである。学術的位相を越えてインスタレーションされた小石川分館の標本コレクションからのアウラ(オーラ。人や物が発する、視覚では捉えられない一種の雰囲気)は、建築としての特徴以上に分館を「特異」で魅力的な場所にしている。そこで作品を展開し、展覧会を出来るのはアーティストにとっては申し分のないことだし、その力量が問われることとなる。
  両学生による共同プロジェクト「TO.CO(トコ)」のフィールドワークやリサーチ、週に何度も開かれたミーティングの成果は、2004年2月~3月に「物見遊山-出会いのカタチ」という展覧会においてまとめられた。TO.COによる仮想のプロダクト及びブランドイメージのプレゼンテーションという形式である。東大×芸大、博物館というハコとの関係の中でそれぞれに自己形成されながら得たものは大変大きい。
  ではアーティストにとって「博物館」とはどういう場であるだろうか? 海外のアーティストと一緒にプロジェクトをしている時や、作品について話しをする時に、「アート」という言葉に対する微妙な感覚の違いを感じることがある。もちろんアートが何であるかをここで語るには、文字数も言葉も足りないが、簡単に言うと海外のアーティストのいう「アート」には芸術・美術はもちろんだが、“artificial”のartが入っている。あるいは美術に詳しい人ならミニマリズム、アルテ・ポーヴェラと「もの派」の違いを考えてみるとわかるかも知れない。日本ではいつのまにか、職人の巧みな「技術」や機能をともなった「人工」とアーティストによる「アート」は分けられてしまっている。工芸とデザインとアートはそれぞれ違うものとしてある。自分を含む日本の若いアーティストはコンセプトの側に偏りがちで作品の造形自体への意識は薄い。本来「アート」とはそういうものであっただろうか? アーティストは博物館から遠ざかってしまったけれど、あらためてそのコレクションを見ていると、もの自体からも、その総量からも、アウラを感じずにはいられない。現代のアーティストが忘れていながら、どこかで求め続けている何かが、「ヴンダーカマー(Wunderkammer、興味深い小箱。世界中から集められた珍しい物を入れる箱)」である博物館に収められているのかもしれない。また博物館の展示方法は現代美術にとって常に新鮮でもある。コンセプチュアル・アートを代表するジョセフ・コスースにマルセル・ブロータース、物語・想像力をあらためて未かけるイリヤ・カバコフといったアーティスト達もそのインスタレーションの作法について、博物館の展示方法からヒントを受けているのは明らかである。
  さて、共同プロジェクト「トコ」はその船頭の多さから期待していたような活動を続けていくのは難しくなってしまったけれど、そこでの「出会い」から私を含む3人は「.automeal オートミール」というグループをスタートさせた。2004年に本館で開かれた「プロパガンダ」展レセプションのケータリング担当としてスタートした後、西野先生の強力な後押しや博物館の方々のサポートもあって、活動の幅を拡げながら、コンセプトである「食べるをひろげるデザイニング」を展開してきている。5月には「国際協働プロジェクト:グローバル・スーク展」のレセプションで再び小石川分館に通い、そこに世界中から集められた眩暈のするような無名の「人工物」との関係性の中で、インスタレーションをあれこれと考えられたことは大変幸せな事であった。

図1.回転ウェディングケーキ.鉄道模型玩具が動力として回転するウェディングケーキ.小石川分館の構造を支える古い柱を作品の内部に取り込んでいる.

図2..automeal.グローバル・スーク展のオープニング・レセプションより..automeal よりサービスされるメニューのインデックスとして,各料理をガラスプレートの上に配置.ガラスプレートには展覧会に集められた「人工物」がプリントされている.テーブル中央のアクリルはセルジオ・カラトローニ氏の作品.

 

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(東京芸術大学大学院壁画研究室院生/ 壁画)
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Ouroboros 第28号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成17年11月30日
編集人:高槻成紀・佐々木猛智/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館