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標本資料の画像データベース

イコノテク・プロジェクトの実際

赤澤 威


本館撮影室におけるQTVR撮影風景
 
QTVR全周画像データベース表示画面(港川人骨)
 
QTVRオブジェクトムービー制作システム例
 
総合研究博物館が推進する事業の中で、最も重要なものの一つが学術標本の総合利用システム「イコノテク」の構築である。博物館収蔵庫を埋め尽くす膨大な標本群をデジタル情報化し、潜在する学術的・資源的な価値を最高度に発揮させようという遠大な計画がそれである。

イコノテク(Iconoth述ue)、語の成り立ちは「エイコーン」(像、画像)と「テケ」(倉庫)の複合語に由来する造語である。つまり、デジタル化した画像情報を自由自在に取り出したり、加工したりすることのできる、画像の「貯蔵庫」であり「システム」の意である。画像情報総合利用システムと翻訳使用することもある。

ところで、博物館が収蔵する総数二百万点を超える一次資料には、ミクロ単位の微化石から動物の交連骨格のように数メートルをこえるものまで数々の立体物が含まれている。この大小さまざまな立体物を、あるがままの姿で情報化すること、それがイコノテク・プロジェクト当面最大の課題である。このために考えだされたのが、ここに紹介するQTVR全周画像データベースである。

本データベースの特徴は、テクネ社によって開発された自動QTVRシステムにある。それは、米国アップル社が開発したQuick Time VR(QTVR)オブジェクト・ムービーをベースにして立体物の全周撮影からデータの加工・編集をパソコン・レベルで自動処理できる画期的システムである。今回同システムを用いて、博物館収蔵の古人骨・化石人骨約30点、縄文・弥生・古墳資料約100点、ならびにシリア・デデリエ洞窟出土のネアンデルタール幼児交連骨格等の画像データベースを構築した。

QTVRオブジェクト・ムービーの基本構造は、縦方向と横方向に各々連続したM×N個の静止画像をM対Nのマトリックス状にまとめた画像ファイルから成る。画像を再生するためのプログラムは、エレメントに相当する画像イメージ(m, n)をマウス等で連続的に指定して表示する仕組みとなっており、ファイルの中にたくわえられている多数の静止画像が結果として連続的な動き、動画のごとき動きをもって表示されることになる。技術的には、現実的なファイル容量と再生速度をMacintoshやWindowsなどのパソコンで実現可能とするため、画像の圧縮・解凍などの処理がほどこされる。最新のQTVRオブジェクトムービー(Ver.2.0)では、更に画像の拡大・縮小、表示サイズの変更、外部ファイルに対するリンクなどが新機能として追加されている。

QTVRオブジェクト・ムービーを作るためには、資料をあらゆる角度から等間隔に撮影し、そのデジタル画像を撮影順にムービーファイルにまとめてゆかなくてはならないが、今回時間短縮と回転精度を確保するためにテクネ社が開発したQTVRオブジェクトムービー自動生成システムを用いた。水平36フレーム、垂直12ポイントで合計432フレームの全周画像撮影を自動化するもので、撮影からムービーの完成までに要する時間は、320×240画素ムービーの場合で一資料あたり約30分、さらにズームアップした撮影に約30分で合計約1時間である。写真撮影は、QTVRムービーを自動撮影している合間をみて35mmカメラで撮影した。また、データベース管理プログラムとしては、アップル社のリレーショナル・データベース「4th Dimension」を考古資料用にカストマイズして使用した。

今回のQTVR全周画像データベースは、イコノテク・プロジェクトとしては初めての試みであったが、実際にデータベースを作成した結果、以下のことが検証された。

  1. 従来の静止画像データベースと比較し、立体物の全体像を対話的に鑑賞できる利点は極めて大きい。

  2. QTVRオブジェクト・ムービーは、一見、動画にみえるが、実は、複数の静止画像を一つのファイルに結合したものであり、静止状態でもビデオ画像では得られない高画質を実現できる。この点は、学術標本の情報化には大きな利点である。

  3. QTVRオブジェクト・ムービーの難点のひとつに、資料1点に対し数百枚の連続した静止画像を撮影しなくてはならなことがあげられてきたが、これを克服するために考案されたコンピュータ制御の2軸回転撮影装置の実用性が確認された。現在の性能は、320×240画素、360フレームで撮影時間約30分であるが、量をこなすためには、更に高速性を追及する必要がある。

  4. この種のデータベースの利用形態としては、CD-ROMやDVD-ROMによる出版が考えられる。但し、データ容量の条件から、CD-ROMの場合は、QTVRオブジェクト・ムービーのフレーム数を約半分におとしたものでレコード数50点。DVD-ROMの場合は、現状のムービーを使用してレコード数100点程度となる見込みである。

QTVRオブジェクト・ムービーは、いわゆるバーチャルリアリティー技術のひとつとして、アップル社が開発したものであるが、この種の技術は、今後、更に各所で開発が進められるものと思われる。高度情報化社会の進展を背景に、コンピュータ自体もますます高速化し、メモリーの集積度も飛躍的に高密度化しつある。この種の情報化技術が、より日常的なものとなる日もそう遠くはないものと予想される。光メディアやインターネットを介し、やがて地球そのものが巨大なサイバーミュージアムとして機能することになるわけである。 今回のイコノテク・プロジェクトは株式会社テクネとの共同研究として実施し、結果の一部をアップルコンピュータ株式会社の協力を得て本館冬季特別展「デジタルミュージアム」において展示公開した。

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(国際日本文化研究センター教授)

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Ouroboros 第4号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成9年5月12日
編者:西秋良宏/発行者:林 良博/デザイン:坂村 健