吉田良和氏(1936年12月21日-2023年12月15日)は、チョウ類の研究と標本収集に長年携わったアマチュア研究者である。1936年に東京都豊島区駒込で生まれ、1959年3月に東京大学農学部農業工学科を卒業後、同年4月に農林省に入省した。以後、1978年7月から水資源開発公団第1工務部工務課長、1981年9月から岩手県農政部次長、1985年4月から農林水産省構造改善局施工企画調整室長、同年11月から同整備課長、1987年4月から農用地開発公団工務部長、さらに農用地整備公団業務部長などを歴任し、1989年6月に農林水産省構造改善局付として退官した。退官後は、1989年8月から2002年12月まで(株)栗本鐵工所において、業務顧問、取締役技師長、顧問として勤務した。
その一方で、吉田氏は学生時代より昆虫、特にチョウ類に強い関心を抱き、職務と並行して長年にわたり研究と採集を継続してきた。国内各地での調査に加え、海外にも積極的に赴き、特に中国を中心とする東アジアから東南アジア地域のチョウ類研究に深く関与した。中でも幼生期の形態および生態の解明に注力し、野外と飼育による記録を重視した研究姿勢は、本コレクションの大きな特徴となっている。また、チョウ類研究者として著名な原田基弘氏とは長年にわたり親交が深く、国内外において複数回の共同調査を行った。これらの調査活動を通じて得られた標本や知見は、吉田氏の研究およびコレクション形成に大きく寄与している。
吉田良和チョウ類コレクションは、その地理的および時間的広がりにおいて高い学術的価値を有する。日本国内産標本については、昭和初期から令和期に至るまでの長期間にわたり収集された資料を含み、地域差や時代的変遷を検討する上で重要な基礎資料となっている。さらに海外産標本については、中国を中心とした東アジアおよび東南アジア産のものを主体としつつ、南米産および南アフリカ産のチョウ類標本も含まれており、多様性に富んだ内容を有している。
吉田氏は退職後、東京大学総合研究博物館の研究事業協力者として長年にわたって当館の昆虫コレクション整理およびデータベース作成に携わり、標本資料の体系化と公開に多大な貢献を果たした。2023年12月に逝去されたが、吉田良和チョウ類コレクションは、その遺志を受け継ぐ形で、2025年4月にご遺族より東京大学総合研究博物館へ寄贈されたものである。なお、本コレクションに付随する標本リストは、吉田氏自身により生前にほぼ作成されており、本目録の編纂作業における重要な基礎データとなっている。
現在、東京大学総合研究博物館では、所蔵する昆虫コレクションの体系的なデータベース化を進め、ウェブおよび出版物を通じた公開を行っている。この吉田チョウ類コレクション目録もその一環として編纂されたものである。172箱の大ドイツ箱に収められた約16,100頭のチョウ類標本から構成されており、本目録ではその第一段階として、6,800頭分の標本データを東京大学総合研究博物館ホームページ内のウェブ・ミュージアムに設けられた博物館データベース上に公開した。
本目録が、チョウ類の分類学、生態学、生物地理学、保全生物学など多様な研究分野に資する基礎資料として活用されるとともに、吉田氏の生涯にわたり築き上げた学術的成果を後世に伝え、学術標本およびミュージアムコレクションの重要性を広く社会に示す一助となることに期待したい。
本目録を作成するにあたり、吉田良和氏のご遺族には貴重なチョウ類標本を東京大学総合研究博物館にご寄贈頂いた。原田基弘氏、岸田泰則氏、手代木求氏、築山 洋氏からはチョウ類標本の同定や産地の詳細について多大なご助言を賜った。博物館ホームページでの公開に関しては高倉淳子氏に大変お世話になった。この場を借りて、各氏に心より深謝申し上げる。本データベース構築には日本学術振興会からの研究成果公開促進費(No. JP24HP7006)および東京大学デジタルアーカイブズ構築事業による助成を受けている。