第2部 展示解説 動物界

軟体動物の分類と系統関係

腹足綱 (Class Gastropoda)

 

直腹足亜網 (Subclass orthogastropoda):

Apogastropoda:

Hypsogastropoda:

 「タマキビ亜目 + 翼舌亜目 + 新腹足亜目」を含むグループ、すなわち吸腔目からオニノツ ノガイ 上科とエンマノツノガイ上科を除いたものである。 特徴的な形態の精子と、陰茎をもつこと、によって定義される (Ponder and Lindberg,1997) 。

(1) タマキビ亜目 (Suborder Littorinimorpha):

 かつて Neotaenioglossa と呼ばれていた分類群の中からオニノツノガイ上科、エンマノツノガイ上科、翼舌類を除いたものに対応する。 Beesley et al.(1998) では、14上科 46科に分類されている。

 タマキピ上科 Littoninoidea のタマキピ科 Littorinidae は潮間帯の岩礁に最も普通に見られ る巻貝である ( 図 23A) 。ソビエツブ科 Pickworthiidae は海底洞窟に生息し、小さく純白の殻をもつ。ハマケシツボ科 Pelyecidionidae( 図 22B) は小型種で殻が著しく細長い。ホシノミ キピ上科 Cingulopsoidea にはホシノミキビ科 Cingulopsidae、 Eatoniellidae、 Rastodentidae などの微小な殻をもつグループが含まれる。リソツボ上科 Rissooidea は 16科からなる。このグループも小型の種が多い。チャ ツボ科 Barieeidae( 図 22C) 、リソツボ科 Rissidae( 図 22E-F) は浅海の岩礁域や海藻上に多数生息する。オチョボグチツボ科 Anabatumidae ( 図 22D) は成熟すると殻口が肥厚し狭くなる。ミジンギリギリツツガイ科 Caecidae( 図 23C-D) は幼生の段階では平巻の巻貝であるが、成長とともに螺層がほどけて緩く曲がった形 になり、最終的には幼生の殻は脱落して、単純な筒状の殻になる。イソコハクガイ科 Vitrinellidae ( 図 23B) は平巻で薄く透明感のある白い殻をもつ種が多い。学名の Vitrinella は「ガラス状」 を意味する vitreus に由来する。 リソツボ上科の特徴は、陸上へ進出した様々なグルー プを含む点にある。カワザンショウ科 Assimineidae は河口や海岸付近に多い。カワグチツボ科 Iravadiidae は生息環境が幅広く、河口から海にかけて生息する。イリエツボ Iravadia yendoi( 図 22G)は内湾の潮下帯に、キツキツボ Nozeba lignicola(図 22H) は水深 100-200m の沈木に付着する。タマキビ上目にも淡水あるいは陸上に進出した科がみられる。ミズツボ科 Hydrobiidae( 図 24A-B) 、イツマデガイ科 Pomatiopsidae 、 Annulariidae 図 20E) 、クピキレガイ科 Truncatellidae 、エゾマメタ ニシ科 Bithiyniidae 、ミズゴマツボ科 Stenothyridae( 図 24C) などはその例である。ソデボラ上科 Stromboidea でソデボラ科 Strombidae は熱帯域の砂底に種類が多い。殻口の外唇が強く張り出すことが特徴である ( カラー図 3,4) 。水を取り入れるための水管もよく発達し、さらに外界の様子を探るため眼をのぞかせる湾入が 形成され、“ stromboid notch" と呼ばれる。螺塔が高く鋭く尖る共通性がある。シロネズミ上科 Vanikoroidea のスズメガイ科 Hipponicidae、カツラガイ上科 Capuloidea のカツラガイ科 Capulidae、カリバガサ上科 Capuloidea のカリパガサ科 Calyptraeidae はすべて笠型の貝殻をもつグループである。硬い地物や他の貝類に付着し、 ほとんど移動せずに鰓の繊毛を使って浮遊物を集めて食べる。クマサカガイ上科 Xenophoroidea のクマサカガイ科 Xenophoridae は低円錐形の殻をも ち、殻の周縁に小石や貝殻を付着させる特殊な習性をもつ ( 佐々木,2002: 図 2-30) 。ムカデガイ上科 Vermetoidea のムカデガイ科 Vemetidae は岩礁の表面に固着し、付着場所によって殻の形を変えるため著しく不定形である。足にある足腺からくもの巣のような粘液の糸を出して浮遊物を捕え、粘液ごと捕食する。 精子の詰まった精包もこの糸を用いて受け渡しをするという。タカラガイ上科 Cypraeoidea のウミウサギガイ科Ovulidae(カラー図5) とタカラガイ科Cypraeidae の殻は常に外套膜に包まれており、付着物はなく光沢に富む。シラタマガイ科 Triviidae( 図 23E) は貝殻の形はアウラガイ上科に類似するが、発生上の特徴 ( エキノスビラ幼生 Echinospira をもつ ) からハナヅトガイ科 Velutinidae とともにハナヅトガイ上科 Velutinoidea に分類されている。タマガイ上科 Naticoidea のタマガイ科 Naticidae は、二枚貝類や他の巻貝類の殻に穴を開けて食べる習性をもち、タマガイ科同士でさえ共食いをすることがある。ヤツシロガイ上科 Tonnoidea はよく 発達した口吻をもち、比較的進化の進んだグループであると考えられている。オキニシ科 Bursidae は 180度 ごとに特徴的な肥厚部(縦張肋) を形成する。トウカムリガイ科 Cassidae は砂底に生息し、ウニの殻に孔を開 けて捕食する。ビワガイ科 Ficidae は螺層の上方が膨ら み、ピワの実のような形を している。学名の Ftcus はラテン語で「イチジク」を意味する。ヤツシロガイ科 TOIlnidae は殻口が特に大きく、丸い樽のような殻を もつ。ナマコ類を捕えて吻鞘で包むようにして食べる。 フジツガイ科 Randidae は水管溝がよく発達し、多くの種は毛のような厚い殻皮に覆われる。ゾウクラゲ上科 Carinarioideal は、かつては別目の異足目 (Heteropoda) として扱われていたグループである。全ての種が浮遊生活を送る。ゾウクラゲ科 Carinariidae は動物体よりも著しく小さい笠型の殻をもち、竜骨状の隆起 (carina) がある ( 佐々木 ,2002: 図 1-3 ,3-7) 。クチキレウキガイ科 Atlantidae は透明な円盤状の殻をもち、動物体は殻の中に完全に収めることができる。ハダカゾウクラゲ科 Pterotracheidae は殻をもたず、ほとんど透明な体を もつため、細長いクラゲの端切れのような目立たない存在である。

 

 

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