オランダからのごあいさつ

自然科学一般,特に植物学におけるシーボルトの重要性についての東京大学とライデン大学の共同展示に寄与することは,ライデン大学国立植物学博物館(NHN)にとって名誉であり,喜びでもあります.その重要性は,私たちの研究所にとっても,また日本の植物学にとっても,ほとんど誇大ではありません.

私たちの研究所である国立植物学博物館は,ウィレム一世により1829年にブリュッセルにおいて王立植物標本館として設立されました.ナポレオン時代に続き,当時ベルギーとオランダは一つの国家でした.1830年に,ベルギーの人々は独立運動をはじめ,ブリュッセルでは暴動が起きました.ちょうどシーボルトが出島における長期の滞在から帰国したときで,彼は私たちのコレクションを救出し,それらを船でライデンに運びました.ライデンには彼自身も住んでいました.ライデン大学国立植物学博物館のシーボルトの日本の植物標本と植物園の生きている彼の植物コレクションは,国立民族学博物館の民族学,国立自然史博物館の動物学,鉱物学コレクションとともに,海外における唯一かつ最大の日本の自然と文化の遺産です.私たちは,日本の友人や同僚とともに,その遺産を保存し研究することを,そして,その大部分を公開して展示することをとても誇りに思います.私は皆様方にライデンを訪れ,それらの宝物をライデン大学植物園,国立自然史博物館,シーボルトの家,国立民族学博物館で,皆様自身で見ることをお薦めいたします.ライデンにあるシーボルトの植物学コレクションのうち重要なものは,東京大学博物館で閲覧できるCD ROM "Von Siebold’s Botanical Treasures in Leiden" で見ることができます.

日本の植物相の研究における,シーボルトの重要性は,世界の植物相にとってのカール・リンネに匹敵します.今年,私たちは1753年に出版されたリンネの『植物の種』"Species Plantarum" の250周年を祝いました.シーボルトは,ツッカリーニと日本植物誌(Flora Japonica)プロジェクトに乗り出した時,リンネの弟子のひとりであるツュンベルク(C. P. Thunberg, 1743−1828)の研究が基礎となりました.シーボルトらの植物誌プロジェクトは完成しませんでしたが,シーボルトと彼の日本人の生徒,さらには彼の後継者らにより集められた豊富なコレクションは,日本の植物相の構成種の解明,ならびに人為的影響と環境変動による植物相の変化のモニタリングにも重大な役割を果たし続けています.これは,このコレクションが非常に多くのタイプ標本を含むものだからです.タイプ標本とは,植物の名前と植物自身,つまり,交配することで進化し続ける一統である「種」に関しての唯一無二の基準となるものだからです.地球上の植物種すべてを網羅した目録(インヴェントリー)を完成するためには,調査と収集を継続する必要があります.シーボルト展に関連して,私たちは日本の植物学における彼の偉大な役割を祝うだけでなく,地球上の私たちの自然資源の研究,保全,持続可能な利用に果たす絶えることのない植物学コレクションの重要性をくみとっていただきたいのです.

ライデン大学と同大学国立植物学博物館を代表して,私はこの展示,そして東京大学総合研究博物館の重要,かつ優れた活動に対して心からの好意とご挨拶を送ります.

ライデン大学植物分類学教授・国立植物学博物館館長

ピーター・バース


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