人間の相貌をカメラによって記録できるようになるのは1840年前後のことにすぎない。そのためルネサンスの生んだ天才レオナルドのように名の知れた人物でも、肖像の復元は容易でない。レオナルドは晩年、後に自画像と目されることになる肖像画を残しているが、後代の人々がレオナルドの真正の肖像と受け止めたのはヴァザーリの著作『画家・彫刻家・建築家列伝』第二版に付された横顔であった。これが後々まで画論や伝記などに繰り返し登場するが、このような「真正の肖像」は、その根拠が不確かなものであっても、ひとたび「類型」(タイプ)として広く定着を見たのちには、容易に変更のきかないものであることがわかる。とはいえ、「版画」という複製メディアに頼っていた時代には、転写のたびにレオナルドの顔の向きが変わらざるを得なかったのである。 12-1「レオナルドの肖像」 木版画、ジョルジョ・ヴァザーリ著『画家・彫刻家・建築家列伝』(イタリア語第二版)より、フィレンツェ、1568年 12-2「レオナルドの肖像」 銅版画(ニコラ・プッサン画)、『レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画論』(フランス語初版)より、パリ、1651年 12-3「レオナルドの肖像」 銅版画、『レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画論』(フランス語再版)より、パリ、1716年 12-4「レオナルドの肖像」 銅版画、ジョヴァンニ=ピエトロ・ベローリ著『現代画家・彫刻家・建築家列伝』(イタリア語初版)より、ローマ、1672年 12-5「レオナルドの肖像」 銅版画、アントワーヌ=ジョゼフ・デザリエ・ダルジャンヴィル著『著名画人伝』(フランス語初版)より、パリ、1745年 12-6「レオナルドの肖像」 銅版画、アントワーヌ=ジョゼフ・デザリエ・ダルジャンヴィル著『著名画人伝』(フランス語再版)より、パリ、1762年 12-7「レオナルドの肖像」 銅版画、クロード=アンリ・ワトレ著『描画論』(フランス語初版)より、パリ、1760年 12-8「レオナルドの肖像」 石版画、『ジョナサン・リチャードソンの著作集』(英語初版)より、イギリス、1792年 12-9「レオナルドの肖像」 石版画、ジョルジョ・ヴァザーリ著『画家・彫刻家・建築家列伝』(フランス語版)より、パリ、1841年 12-10「レオナルドの肖像」 スチール・エングレーヴィング、シャルル・ブラン&ポール・マンツ共著『全流派画人伝』より、パリ、1876年 12-11「レオナルドの肖像」 木版画、高橋由一編著『臥遊席珍』(第1号)より、1880年(明治13年)、東京大学総合図書館蔵(ZF69) |
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