7 「模刻品」から「真正品」へ





 展示品のなかにポリエステル樹脂の象取り模型が一点含まれているが、それ以外はどれも実際に石器としての使用に耐える。出自来歴の確かな出土物であれ、現代の複製品や模型であれ、形態の観察に役立ち、教育研究の教材として立派に通用する。石器の系統分類は千年、万年、十万年を単位年代とする。製作された経緯や動機こそ違え、古いものも現代のものも千年後、万年後にはすべてが真正の石器と見なされるに違いない。ここではオリジナルとコピーとのあいだに本質的な差異を認め難い。各種の両面加工石器のなかに「ホンモノ」が五点ある。はたして識別は可能だろうか。

7-1 ハンドアックス
シリア、ラタムネ遺跡、約70万年前、長16.5、東京大学総合研究博物館人類先史部門蔵

7-2 バイフェス模刻品
米国産黒曜石、米国Pictures os Records社制作、長18.5、西秋蔵

7-3 バイフェス
北海道白滝遺跡、約15万年前、長18.4、東京大学文学部蔵

7-4 ハンドアックス模刻品
フランス産フリント、Les Eyziesの土産物店制作、長15.8、西秋蔵

7-5 ポイント象取り模型
スペイン、アルブレーダ遺跡、Museu Arqueologic Comarcal de Banyoles制作、18万年前、長12.9、西秋蔵

7-6 ポイント模刻品
北海道産黒曜石、松沢亜生氏製作、長12.2、個人蔵

7-7 ハンドアックス模刻品
シリア産フリント、大沼克彦氏製作、本体長18.5、総合研究博物館研究部蔵

7-8 ハンドアックス
シリア、パルミラ盆地、約30万年前、長15.6、総合研究博物館研究部蔵

7-9 ハンドアックス模刻品
シリア産フリント、大沼克彦氏製作、本体長15.8、総合研究博物館研究部蔵

7-10 ハンドアックス
シリア、パルミラ盆地、約30万年前、長12.6、総合研究博物館研究部蔵

7-11 ハンドアックス
シリア、パルミラ盆地、約30万年前、長12.2、総合研究博物館人類先史部門蔵

7-12 ハンドアックス(7-7)の模刻プロセスの展示
テンバコ一箱

 ハンドアックス1点を制作した時に生じた石屑。大きな破片から極小の塵まで、1個の母岩は最終的に約8万4千百個の部分に粉砕される。「模刻」することでハンドアックスの製法、用途、形態などの理解を深めようとする実験考古学者の姿勢には、「模写」することで名画への理解を深めようとする画家のそれと共通するものがある。



前頁へ   |   表紙に戻る   |   次頁へ