謝罪・検閲・発禁
新聞錦絵には荒唐無稽とも思われる話も登場するが、現実に起きたニュースを伝えるのがたてまえであった。そのため一般の新聞と同様に、誤報や虚報には訂正が出され、また内容によっては検閲による差し替えや発禁が行われていたらしい。
新聞図会 正誤
正誤/当図会第二十一号初花云云ハ/全々伝聞ノ誤也今茲ニ/図面ヲ以テ謝罪ス/板元八尾善/筆者正情堂九化
東京日々新聞 第八百五十一号
東京小川町に寓る小林某氏ハ、義弟斎藤某が陸軍に随行し、蕃地に/病死の報を得て哀哭寝食を絶すに至りしが、其憂欝を散さんと/黄昏頃より書斎に籠り、独酌居たる椽外に物音あるは/狗猫かと、見ゆれバ義弟/斎藤が容貎平日の/姿に不変、舎兄よ只今帰朝/しと、完爾と笑ひて席につき、/久し振なる盃を請んと進む景形の物淒けれバ思ハずも、喚と/叫びて駈出し再び戻りて能見るに、又影だにもなかりしハ/友愛の情切なるより、斯る怪事を/自ら見しにや
転々堂鈍々記
図130
東京日々新聞 第八百五十一号とその異文版
(戦地から弟の霊還る)
絵がそのままで、文章だけが差し替えられた異版の例。陸軍の出兵先での病死という話題ゆえ、何らかの圧力がかかったとも考えられる。おそらく姓名が消されているほうが後版であろう。文章も美文調に変えられている。東京日々新聞 第八百五十一号(異文版)
秋暑き庭面掃て打水に。濡る草樹の露の玉葉末を伝ふ/音絶て消るに疾き光景を。見つつ思へば会者定離。と/自ら感ずる愁情の鬱を聊か散さんとて。/篭る書室に/至来たる/洋酒を開きて/只獨り。飲居る縁外に/物音あるハ。桐の一葉か。小禽かと。見れバ久しく音信ぬ。義弟/何某なりけるが。此ハ先頃遠国にて。病死したるの報ありしに。/友愛の情切なるより。幻に姿を現せし。影ハ千種の/中に消。虫の音ばかりぞ残りける
転々堂主人録
図131
大阪日々新聞 第三百十号
(嫉妬の妻が陰門の刺身)
東京大学法学部附属明治新聞雑誌文庫蔵
明治八年(一八七五)六月頃、発禁となったと伝えられる新聞錦絵。士族か官員の家の事件であったのが問題だったのか、内容と絵があまりにもセンセーショナルだったせいなのか、発禁処分の理由ははっきりしていない。大阪日々新聞 第三百十号
夫住主たる者ハ定まる妻の外邪淫を/禁ずべしとハ宜なる哉茲に播州龍野ト/云所ニ何某と云有夫婦に下女/一人を仕けるニ主此下女竹に/心をかけ夜毎夜毎に主ハ/竹の方にて/■〔目へんにト〕(ふし)けれバ/妻嫉妬の心深/く夙夜/忘るる隙さへ泣/より外ニ時をまつ四月十七日の/ことなるが主家用にて他行を幸ひと/竹を呼て爾に頼が有命がほしきト云/より早くさし殺し陰門を繰ぬきて包丁/なして皿に入置主人■[白へんに反]宅ニ及びしかバ酒肴を/出し右の刺身を喰さしめける主の曰此指味ハ/何れより貫しぞト問にそれハ奥にいる人が贈られしと云/主酒肴すみて奥へ行見れば女ハ赤けにそみ
図132