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[第二部 コンテンツ]

岩石・鉱床


秋田県相内黒鉱鉱床産鉱石
秋田県相内黒鉱鉱床産鉱石
顕著な堆積構造が認められ、鉱床成因論上重要な資料となった。
スルカン小藤石大理石接触部
スルカン 小藤石大理石接触部

地質学は地球を研究対象とし、そこで観察される地質現象から地球とその環境、そしてそこに住む生物の進化メカニズムを明らかにしようとする学問である。地質現象は時間的にもまた空間的にも多様であり、46億年にわたる地球史を経て大きく変化してきた。その多様性を反映して、地質現象を凍結している岩石の全岩組成、微細組織、鉱物組成などは非常に変化に富んでいる。こうした岩石からその生成にかかわった過程の情報を抽出し、その成因を明らかにしようとするのが地質学である。岩石学および鉱床学が対象とするのはその固体部分であり、岩石学は地殻とマントルの主要な構成要素である火成岩、変成岩および深成岩の成因さらには地球の成層構造形成メカニズムを、そして鉱床学は人類にとって有用な元素が特に濃集した地下資源の成因、特にその濃集メカニズムを明らかにすることを目的としている。

岩石・鉱床部門の鉱床サブ部門では、地下資源に関する数多くの貴重な標本・資料を保管している。その収蔵する主な学術標本・資料は、クランツ鉱物標本、クランツ岩石標本、本邦鉱山別鉱石・岩石標本、海外鉱床産標本、本邦にて決定された新鉱物の模式標本など数万点にのぼる。明治初年より、本学では鉱床に関する多くの重要な研究が行われてきたが、その素材となった原標本も収蔵されており、日本における鉱床学の歴史を辿ることが出来る。

現在でも、依然として標本・資料は増え続けており、狭い標本資料室はそれらで溢れている。収集の対象は国内の含銅硫化鉄鉱鉱床、黒鉱鉱床、層状マンガン鉱床、スカルン鉱床、鉱脈鉱床など、あらゆるタイプの鉱床におよんでおり、その時代の研究をリードしてきた代表的な世界的研究を裏付ける標本・資料のほとんどすべて網羅している。とくに、含銅硫化鉄鉱鉱床、黒鉱鉱床、層状マンガン鉱床の標本は充実しており、世界的研究の歴史を知ることが出来る。また、国内だけでなく、海外各地の代表的鉱山産鉱石・岩石の標本も保管されており、これらの鉱床の成因論上重要な役割をなす鉱物共生や組織・構造などを詳細に観察出来る。例えば、写真(上)に示した試料は、顕著な級化層理を示す黒鉱鉱石であり、黒鉱鉱床が海底で熱水から結晶化した硫化鉱物の沈降堆積によって形成されることを初めて明らかにした貴重な試料である。

このような標本・資料には、再び得ることの出来ないものも少なくないので、これらを整理・保存し、また、積極的に専門分野の教育・研究に役立たせる目的で、一部は当館2階の常設展示スペースに展示してあり、本学のみならず、他大学からも広く活用されている。

収蔵する主な学術標本・資料の中からは、小藤石、神保石、原田石、吉村石、大隅石、パラシンプレサイト、都茂鉱、定永閃石、苦土定永閃石、渡辺鉱など、数多くの新鉱物が発見されており、今もなお、研究中のものも多い。写真(右)に示した小藤石大理石は大学博物館の前身である資料館時代の初代館長である渡辺武男が初めて小藤石を見い出した試料である。渡辺は本学地質学教室教授で我が国地質学の黎明期において指導的地位にあった小藤文次郎に因み、この硼酸塩鉱物を小藤石と命名したのである。

スカルン鉱床、鉱脈鉱床などの標本・資料の一部はデータベース化され、これらの豊富な標本・資料を用いて、地下資源やそれと関連する珪長質火成岩類の成因の解明をはじめ、安定同位体測定による熱水活動を伴う熱の移動や物質の濃集機構の研究などが本学のスタッフを中心に活発に行われており、毎年多くの成果が公表されている。また、成果の一部は当館の出版物にも発表されている。

岩石サブ部門には主に理学部地質学教室の岩石学講座の教官・学生によって講座開設以来、採集・研究された造岩鉱物、火成岩、変成岩、深成岩等の標本が保管されている。その主なものは、世界的に著名で詳しく研究された三波川変成帯や領家、阿武隈変成帯の各変成帯の岩石標本、および北海道、東北日本、伊豆諸島、西南日本の火山の代表的な岩石標本であり、整理済み標本は8900点、未整理標本は4140点に達している。これらの岩石の多くのものは、本学地質学教室の久野久教授によって収集されたものであり、これらの試料を用いてこれまでに多くの研究がなされてきた。

外国の岩石標本も多数収蔵されており、代表的なものでは、フランシスカン変成帯、アパラチア変成帯、ノルウェーやスウェーデン、ドイツ、フランス等のヨーロッパの変成帯の岩石や、層状貫入岩体の世界的な模式地であるスケアガード岩体やスティルウォーター火成岩帯の岩石、巨大な浅所貫入岩体であるパリセードシル、それにハワイ、イタリア、インドネシア、北アメリカ西海岸の火山岩の代表的な岩石などがある。 造岩鉱物標本は、特に輝石・角閃石類を中心に、産状別に多種類の標本、約780点が保管されている。これらの鉱物のほとんどのものは化学分析がなされカタログ化しているので、比較標本としてさらに高温高圧実験用試料等として大学内外から利用されている。

また、マントルや下部地殻など地球のより深部に由来する岩石標本も多数収蔵されている。これらのうち主なものをあげてみると、アルカリ玄武岩中のゼノリスとして産する超苦鉄質岩やはんれい岩については、一ノ目潟マール、隠岐島後、吉備高原や唐津高島産のものがある。巨大なオフィオライトの下部層として産するものについては、北海道神居古潭変成帯北端に露出している日本一巨大で世界でもっともメルト成分に枯渇した知駒岳かんらん岩体、日高変成帯の最南端に位置している世界でもまれに新鮮なマントル物質として注目され多くの研究がなされている幌満かんらん岩体、オルドヴィス紀の島弧の上部マントルであるとされる北上山地の早池峰・宮守オフィオラト、地殻下部に形成されたマグマ溜まりの化石である御荷鉾帯の鳥羽超苦鉄質岩帯、多様な岩相変化を見せる室戸岬のはんれい岩体等があげられる。マントル由来の岩石は、当館2階常設展示スペースに展示してあり、かんらん石の淡い緑色の輝きに地球の深部で起きていた現象に思いを馳せる機会を提供している。

(小澤 一仁)

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