[第一部 デジタルテクノロジー]
ネットワーク
インターネットは、決して新しい技術ではないが1990年代になり商用化されてほぼ全世界の人々を結ぶ情報インフラストラクチャになった。インターネットに代表されるコンピュータネットワークの核心は送る情報を短いメッセージに分けて送るパケット交換という技術である。1964年のRAND研究所のPaul Baranによる障害に強く秘匿性の高いネットワークについてのメモメOn Distributed Communicationsモに端を発したことから、冷戦の下で核攻撃を受けても壊されないコンピュータネットワークを目指して開発が始まったとされる。1969年には米国防省のARPA(Advanced Research Project Agency、高等研究計画局)のARPANETが4つの大学や研究所のホストコンピュータを50Kbit/sの専用線で結んで開通し、大学や研究機関での高級学術ネットワークとして発達していった。1980年代半ばにはNSF(National Science Foundation、全米科学基金)が受け継いだNFSNETに多くの大学、研究機関、民間会社の研究部門などが参加し、ネットワークは日増しに大きくなっていった。ネットワークに接続されたホストコンピュータの数は1984年には1000台を1989年には10万台を超えた。もっぱら電子メールや電子掲示板、ファイル転送、遠隔地からのログインなどに使われ、研究者にとっては便利な道具ではあったが、商業利用を禁じていたためオンラインサービス(いわゆるパソコン通信)が発達した1980年代においても一般には無縁であった。1990年代に入り、商業利用のためのデータ取り次ぎ専用のサーバーをビジネスとして運営する会社が生まれ、明白な商業利用が可能になった。1995年にはNFSNETが停止し、商用プロバイダに全面的に依存するようになった。1996年にはインターネットに接続されたホストコンピュータは1000万台を超えるといわれる。
WWW(World Wide Web)はまだ歴史が浅い。CERN(Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire、European Laboratory for Particle Physics)のTim Berners-Leeが1989年に記した“Information Management: A Proposal”に始まる。ここで巨大なCERNにおける情報交換をより良く速くする手段として分散型のハイパーテキストシステムが望ましいとしている。コンピュータサイエンス界でのハイパーテキストブームが一段落したころである。CERN内部で提案が認められ、1990年にはNeXT ワークステーション上で最初のWWWブラウザ/エディタソフトウェアが開発されている。だがその有用性は広く認識されるには至らず、グラフィックスをサポートしたWWWブラウザソフトウェアMosaicが1993年にUniversity of IllinoisのMarc Andreessenらの手により開発されるまで待たなければならなかった。WWWにより簡単に情報が引き出せるようになってから、インターネットが専門家以外に爆発的に広まった。つまりグラフィカルな分かりやすいユーザーインタフェース、ネットワークを使っているという意識なしに紙メディアよりも簡単に大量の情報にアクセス出来る、画像や音声も取り出せるという特徴が広く受け入れられた。1994年にはSilicon Graphics社の会長であったJames ClarkとMarc AndreessenらのMosaic開発メンバーによりNetscape Communications社が設立され、WWWブラウザの商用化時代が始まる。現在のWWWブラウザは画面をフレームという単位で分割したり、ハイファイ音声から動画までをサポートというように高機能になってきている。以下のJavaとVRMLのサポートによりWWWブラウザはさらに幅広い表現力を備えるようになってきている。
Javaはネットワークで送られることを前提としたプログラミング言語。1991年半ばにSun Microsystemsで情報家電機器の組み込み用プログラムのための言語としてOakという名で生まれた。サーバー(ホスト)は必要に応じて、クライアント(パソコン)に小さなプログラム(アプレット)を送りつける。クライアントはそれ以降、サーバーとの通信を必要とせずに(ローカルに)プログラムを実行出来る。クライアントは、小プログラムを受け取ることにより必要に応じて機能を増強出来る。またホストが直接制御するよりもネットワークを通る通信量を大きく減らせる。実際にはクライアントはブラウザがその役目を果たしていて、ブラウザが必要なアプレットをロードすることで、自由自在の機能を果たせる。原理的にはブラウザとJavaだけでワープロ、お絵描き、表計算でも処理出来る。JavaはC++というプログラミング言語を改良して生まれた。主な違いはネットワークで送り付けても安全なようにセキュリティに配慮して設計されていること。またJavaはどのコンピュータ上、どのOS上でも走るようにJava専用の仮想コンピュータの上で実行される。
VRML(Virtual Reality Modeling Language)はWWW上でコンピュータグラフィックスの3次元の仮想空間内を自由に動けるようにするための技術。VRML自身は3次元空間の中を記述するための言語であり、1994年のVRML1.0では静的な空間しか表現できなかったが、1996年のVRML2.0では3次元空間内の物体内の相互作用を記述出来る。VRMLに対応したブラウザを利用することにより、ユーザーは画面内の3次元CG空間内を移動しているように感じることが出来る。
ATM(Asynchronous Transfer Mode)は超高速通信のための技術であり、マルチメディアデータを短い固定長(53バイト)のセルに分割して送る方式を指す。広域通信網(WAN)にも構内通信網(LAN)にも使え、156Mbit/s、622Mbit/s、2.2Gbit/sなど超高速通信に対応出来る。インターネットの基本であるパケット通信よりも信号の遅れが少ないことが特徴。パケットは情報を長い可変長に分割したものだが、ATMは短い固定長のセルに分割するため長いパケットの送信を待つことなく、遅れを最小限に出来る。用途としては音声、ビデオ画像からデータ通信にまで使うことができ、また必要なQOS(サービス品質、帯域幅)を指定出来るので、マルチメディアの通信に向く。
(坂村 健)
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