口絵2



■発掘当初の大形女性土偶
 テル・セクル・アル・アヘイマル遺跡で2004年に見つかった女性座像。9,000年前頃の先土器新石器時代B末期の作品である。非焼成のため非常にもろい状態で発掘された。シリア考古遺産庁との共同プロジェクトとして総合研究博物館でクリーニング、保存修復を実施した。

■大形女性土偶頭部
■大形女性土偶
 クリーニング、保存修復後の土偶。右足を欠いているが横座りをしているとみられる。多産と豊穣の象徴、すなわち女神あるいは地母神の一種であると考えられる。
 頭部をふくめた高さは約14cm、幅は10cm四方ほどある。同時代の女性土偶は高さ数センチ以内がふつうであり、破格に大きい。これに匹敵するサイズをもつ作品としてはトルコのチャタルホユック遺跡の焼成土偶がよく知られているが、本例はそれよりも500年ほど古い。また通常の女性土偶は胸や臀部を強調する一方、顔の表現を省略するなど定型的なものがほとんどであるのに対し、この土偶は頭髪や眉、耳まで表現されたリアルな頭部、全身をおおう赤と黒の二色彩文をもつなど、写実性、造形性がきわだつ異色の作品である。
 女性像は2万年以上前の旧石器時代にも作られていた。それらは立像がほとんどである。新石器時代でも初期の像は立像であり、座像が一般化するのは9,500年前頃以降である。公共建築やモニュメントが激減する時期に増加することから、儀礼が公共型から家内型に移行したことを示すとされている。また、それ以前の儀礼作品は長期的利用を示唆しているのに対し、多くの土偶は小形で造作が単純であるため利用も短期的であったとみられる。テル・セクル・アル・アヘイマルの本作品は儀礼の変質期に登場した。
■クリーニング中の大形女性土偶頭部
■『遺丘と女神』展会場風景