ラミダスと、カダバ、オロリン、サヘラントロプスとの関係は?



 カダバは、560万から570万年前の下顎骨の破片とその歯、さらに遊離した歯10点ほど、それと530万年前の足の指の骨などからなります。ラミダスとの違いはそう大きくなく、当初はラミダスと時間的に異なる亜種とされました。その後、上顎の犬歯などが追加発見され、わずかながらもラミダスより類人猿的であることがわかり、アルディピテクス属の別種、アルディピテクス・カダバとしました。足の指の骨は530万年前ぐらいと年代がやや若いのですが、関節構造からアウストラロピテクスと同様に足の指を背屈していたことがわかり、二足歩行をしていたと解釈されています。
 570万から600万年前のオロリンについては大腿骨がみつかっています。発見者たちは、アウストラロピテクス以上に進歩的かもしれない、などとかなり大胆な意見を発しています。ですが、オロリンの大腿骨を見ると、殿筋群の付着部位の形状や、頚部の骨分布がアウストラロピテクスとは異なり、より原始的と思われます。一方、大腿骨頚部には、腱による特徴的な圧痕があり、

これは股関節を伸ばしきった時にしかできないものですので、オロリンは何らかの二足歩行を行っていたといえます。
 ではカダバとの違いはどうかですが、顎骨片や遊離した歯の標本が双方に共通にあります。これらを比べてみると、どうやらその違いは軽微なもののようです。犬歯はカダバと同様、メスの類人猿と区別がつきにくい形状をしています。ですので、オロリンは、カダバとも類似した古い人類祖先であるとの解釈が妥当です。
 サヘラントロプスは、いきなり頭骨の化石が丸々出土した、希な例です。アウストラロピテクスと比べるとそしゃく器が頑丈でないことや、チンパンジーほどには顔面が前方に突出していない、などの特徴がみられます。こうした形態は、おそらく原始的な特徴で、共通祖先から受け継いだものでしょう。一方、後頭部や頭骨の底部にみられるいくつかの特徴はアウストラロピテクス的で、そのためにも、人類の系統に属すると思われています。

サヘラントロプスの頭骨は、あまりに画期的な発見で、比較対照する同時期の頭骨も存在しないこともあって、アルディピテクスでもなく、オロリンでもなく、第三の属名が与えられました。しかし、頭骨以外では、断片的な顎と歯がオロリンやカダバと共通に知られており、必ずしも大きな違いは見出されていません。これらだけを見たら、何もそれぞれを別属とする必要は浮かび上がってこなかったかもしれません。
 問題は、カダバとオロリンには頭骨がないことです。大腿骨が報告されているのはオロリンだけです。今後、頭骨と主要四肢骨において、アルディピテクス、オロリン、サヘラントロプスの標本がそれぞれに充実し、三者を直接比較する必要があります。そうでないと、ほんとうに三つの属があったのかどうか、判断のしようがないのが現状です。