第2部 展示解説 動物界

哺乳類の多様性と
標本から読み取ること

 

 

「有袋類 」:

 有袋類と胎盤をもつ哺乳類 (有胎盤類) との大きな違いは名前の由来になっているように、メスは腹部に袋状の構造(育児嚢)をもち、ここに未発達な新生児を入れて育てる点にある。多くの原始的な形態を とどめる。たとえば眼窩( 目の入る穴 ) の独立性が乏しく、下顎骨の後端部が内側に彎曲する。頭骨の硬口蓋が貧弱で孔がある点や、歯の数が多い点もそうである。 広義の「有袋類」は 18科あり、265種が含まれる大きなグループで、オーストラリアと中南米に分布する。食性や形態なども多様で「フクロ何々」と名付けられるように有胎盤類にみられるタイプに対応した種がいる。かつて「有袋目」にまとめられていたグループは、現在ではいくつかの目に分割すべきと考えられるようになった ( 遠藤・佐々木 ,2001) 。

ディデルフィス目 :

 オポッサムは大型の齧歯目あるいはテン、ハクピシンなどと外見が似ている。鼻先は尖り、 多数の歯をもつ。 5本指をもち、木の枝などをつかみやすい構造になっている。また長い尾をもつ。雑食性で、生息環境もさまざまであるが、樹上性の傾向があるものから、水中生活に適したものまでいる。ミナミオポッサム Didelphis marsupialis ( 図 22) はこの目に属する。

ダシウルス目 :

 フクロネコ科に属す肉食の小型有袋類である、オオネズミクイ Dasyuroides byrnei ( 図 23) はこ の科の中では大型のほうで、オーストラリアの内陸砂漠にすみ、地中にトンネルをほる。 3対の門歯がある点で他の有袋類と区別される。フクロオオカミ Thylacinus cynocephalus (フクロオオカミ科) は1936年に絶滅した。 かつてタスマニアに分布し、オオカミに驚くほど似た動物である ( 図 24) 。ただし外見的には背中にはっきりした縦縞があり、尾の付け根が太い。フクロオオカミは羊の害獣として徹底的に駆除され、悲劇的な末路をたどった動物の典型例といえる。同様の例はオセアニアに多い。

ベラメレス目 :

 パンディクート科に属するチャイロコミミパンディクート Isodon obesulus( 図 25) は後足の指が 癒合しており、多門歯類の歯式をもつ。外見と高い繁殖率や雑食性など、齧歯目との共通点が多い。ミミナガパンディクート Macrotis lagotis ( ミミナガパンデイクート科 , 図 26) は、全体はパンディクート科と似ているが、耳介が長く、鼻先が伸び、四肢も長い。乾燥地に適応的でトンネルを掘って暮らす。頭骨の耳骨砲がよく発達 しているのが特徴である。

 

双前歯目 :

 「有袋類 」として最もよく知られているのはカンガルーの仲間で、11属 50種からなる。カンガルー 類は尾で体を支えながら直立姿勢をとり、よく発達した後肢で跳躍する。尾が大きく、ジャンプしたときのバランスをとるために、また体重の支えとなる。生態学的に見て、カンガルー類は他の大陸における有蹄類と同様、植物を消費する栄養段階で有力な役割を果たしているが、形態学的にも頭骨はシカなどによく似ている ( 図 27B) 。カンガルー (Macropus sp.) はよく発達した下顎の門歯や、後足の指のうち第 4指のみが発達し、他は貧弱であること( 図 28) や、よく発達した前恥骨などが特徴的である。この前恥骨は育児嚢を支えるための構造である。また、頭骨の硬口蓋は貧弱で、小孔がたくさんある。

 よく知られたコアラ Phascolarctos cinereves( コアラ科 , 図 29) はカンガルー類とは対照的に樹上生活者である。オーストラリア東部のユーカリ林にすむ。体重は 10kg ほどで、前後足とも対向指があり、木の枝をつかむのに適している。歯は数が少なく大臼歯は 4本しかなく、犬歯も上顎に 1対あるだけである。これでユーカ リの歯をすりつぶし、盲腸で発酵させる。盲勝は体長 の 4倍もの長さがあり、哺乳類中最長である。新生児の離乳食は母親の盲腸で発酵させた糞で、肛門からと りだして与える。ユーカリの葉には動物に有害な二次化合物が含まれているが、コアラはこれらを肝臓で解毒することができる。それでもユーカリの葉は利用し づらい食物であり、コアラは「省エネ」的な生活をし、1日のうち 18時間くらいは眠っている。フクロギツネ Trichosurus vulpecula ( クスクス科 , 図 30) はオーストラリアにすむ樹上性の葉食性の双前歯目である。体重 は 2 、3kg ほどで、前足の爪は鋭く、後足の親指は対向性で樹上生活に適している。大臼歯は低冠性である。 交連骨格からは発達した前恥骨がよくわかる。ハイイ ロリングテイル Pseudocherius peregrinus ( プーラミス科 , 図 31) はオーストラリア東部の森林にすむ。名前の とおり尾がくるりと巻いている。葉食性で後足には対向性の指がある。臼歯の咬合面にはするどい三日月形のエナメル質隆起があって葉のすりつぶしを効率的にし、よく発達した盲腸で発酵させる。近縁な種としてフクロモモンガ Petaurus breviceps がいる。ウォンパット科のヒメウォンパット Vombatus ursinus (図 32) はオーストラリア東南部に生息する地上性の体重 30kg ほどである。丸々とした体型で、強力な前足とその爪で地面を掘る。門歯は伸び続ける点で他の有袋類と違い、齧歯目に似る。植物食で繊維質の植物もよくすりつぶ して食べることができる。

 

 

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