第2部 展示解説 動物界
魚類の多様性

 

 

 スズキ目 Perciformes [ 17亜目 148科約 1496属約 9293種 ]

 スズキ目は魚類だけでなく脊椎動物の中でも最も多様化したグル一プで、約 9300種を含んでいる。 17亜目のうちスズキ亜目 Percoidei( 約 2865種 ) 、べラ亜目 Labroidei( 約 2234 種) およびハゼ 亜目 Gobioidei (約2121種) は多数の種からなり、これら 3亜目にスズキ目の 4分の 3以上の種が含まれる。また、ハゼ科 Gobiidae( 約 1875種、ハゼ亜目 ) 、カワスズメ 科 Cichilidae( 約 1300種、ベラ 亜目 ) 、べラ科 Labridae( 約500種、ベラ亜目 ) 、ハタ科 Serranidae( 約 450種、スズキ亜目 ) 、イソギンポ科 Biemildae( 約 345種、ギンポ亜目 Blennioidei) 、スズメダイ科Pomacentridae( 約 315種、ベラ亜目 ) 、ニベ科 Sciaenidae( 約 270種、スズキ亜目 ) およびテンジクダイ科 Apogonidae( 約 207種、スズキ亜目)は大きな科で、これら 8科にスズキ目の約 60% の種が含まれる。 世界中のあらゆる水域に生息している。
  一般に次のような特徴をもっている。眼窩蝶形骨はない。胸鰭は高位。腹鰭は 1棘 5軟条 ( あるいは全体で 6本以下 ) で、ふつう胸位あるいは喉位。腰帯はふつう擁鎖骨に接する。尾鰭の分枝鰭条は 15本またはこれより少ない ( 主鰭条は 17本以下 ) 。
 確実な最古の化石記録は前期嘆新世の地層からのものである。

 

 スズキ亜目 Percoldei [ 72科約 529 属約 2865種 ]( 図 25 、 26)

 スズキ目の中で最大のグループである。このグループの魚類は形だけでなく生活様式においても多様性に富む。そのため共通の特徴をあげることは難しいが、一般に次のような特徴をもつ。背鰭・臀鰭・ 腹鰭に棘条がある。背鰭は 1・2基で、棘状部と軟条部からなる。腹鰭は 1棘 5軟条で、胸位。尾鰭の分枝鰭条は15 本以下。
  ハタ科( 約 450種)、ニベ科( 約 270 種) 、テンジクダイ科( 約 207 種) 、ペルカ科 Percidae(162 種) 、イサキ科 Haemulldae( 約 150種) 、アジ科 Carangidae( 約 140種) 、フエダイ科 Lutimidae( 約 125 種) の順に種数が多く、これら 7科でスズキ亜目の 50%を超える。漁業対象種も多く含まれる。
  日本およびその周辺の、サンゴ礁などの浅海域に生息するハタ科・スズメダイ科・テンジクダイ科魚類には、新種や初記録種といっ た未知種が数多く確認されている ( 松浦・瀬能 ,2004) 。

 

く備考 >
富永義昭 (1936-l 994 、 1959年理学部動物学科卒業) は、大学院で富山一郎 ( スズキ目八ゼ亜目の備考参照) に師事、大学院・理学部助手時代を通じてハタンポ科魚類の系統分類学的研究を行った。その後、理学部講師や総合研究博物館動物部門客員研究員として、 Leptobmma 、アオパダイ科 Glaucosomatidaeなどスズキ亜目魚類の系統分類学的研究を行った。 1980年代からは共同研究者とともに、スズキ亜目魚類を中心に広く真骨魚類の比較形態学的研究を開始した。鰾の後部の形態に関する研究 『 Posteriorextension of the swimbladderin percoid fishes, with a literature survey of other teleosts』(Torminaga, Sakamoto and Matsuura-1996) はその第 1報である。動物部門は、富永とその共同研究者の研究標本を多数保管している。

 

 ベラ亜目 Labroidei [ 6科約 219 属約 2234 種 ]

 以前は、ベラ科 Labridae、オダクス科 Odacidae およびブダイ科 Scaridae の 3科だけが含められることが多かったが、現在ではカワスズメ科 Cichlidae 、ウミタナゴ科 Embiotocidae およびスズメダイ科 Pomacentridae もベラ亜目に含められている。このグループの特徴は、 左右の下咽頭骨が癒合して下咽頭顎といわれる特別な構造をつくることである。化石は中期始新世の地層からも発見されている。
  カワスズメ科 (約 1300 種) は魚類の中でコイ科 ( 約 2010種、コイ目) 、 ハゼ科( 約 1875 種、スズキ目ハゼ亜目) に次ぐ大きな科で、中央・南 アメリカ、アフリカ、インド沿岸の淡水・汽水域に生息している。
  ベラ科 ( 約 500 種) は、海産魚の中ではハゼ科の次に大きなグループである。ベラ科・ブダイ科 (83種) ・スズメダイ科( 約 315種) はチョウ チョウウオ科 Chaetodontidae(114 種、スズキ目スズキ亜目) とともに サンゴ礁を代表する魚類である。
  日本周辺海域のベラ科魚類には、数多くの未知種(新種や初記録種)が確認されている ( 松浦・瀬能 ,2004) 。

 

 ゲンゲ亜目 Zoarcoidei [ 9科約 98属約 318種 ]

 体は細長い。背鰭と臀鰭の基底が長い。鼻孔は1つ。すべて海産で、寒海の底で生活するものが多い。
  ゲンゲ科 Zoarcidae( 約 220種) が最大で、北太平洋と北大西洋に多数の種が分布している。この科では、背鰭と臀鰭が尾鰭とつながっている。腹鰭はあるものとないものがあるが、ある場合には小さくて喉位。
  日本近海では、ゲンゲ科の未記載種が数多く確認されている ( 松浦・瀬能 ,2004) 。

 

 ノトテニア亜目 Notothenioidei [ 5科約 46属約 122種 ]

 南極海を中心に分布しており、南極海域の沿岸性魚類のほとんどはこのグループの魚類である。腹鰭は喉位で、 1棘 5( まれに 4) 軟条で、軟条はすべて分枝している。この仲間は鰾をもたないので、ほとんどの種が底生性であるが、なかには中層を遊泳するものもいる。氷 点下の水温で生活している種もいる。

 

 ワニギス亜目 Tractzimidei [ 13科 51属約 212種 ]

 一般に背鰭の軟条部と臀鰭の基底が長い。ほとんどが海産。

 

 ギンポ亜目 Blennioidei [ 6科約 127 属約 7324種 ]( 図 27)

 体はやや細長い。胸鰭の基底の前にある腹鰭は、ふつう、皮下に埋没した 1本の棘条と 2 -4本の不分枝軟条からなる。臀鰭は 0-2 本の棘条と不分枝軟条からなる。暖海種が多い。
 最も多様化している科はイソギンポ科 BIenniidae( 約 345 種 ) で、 大西洋・インド洋・太平洋の主として熱帯・亜熱帯海域、まれに淡水域、ときに汽水域に生息する。

 

 イレズミコンニャクアジ亜目 Icosteoidei [ 1科 1属 1種 ]

 北太平洋に分布するイレズミコンニャクアジIcosteus aenigmaticus (イレズミコンニャクアジ科 Icosteidae) のみからなる。体は軟弱で、鰭には棘条がない。体形や斑紋は若魚と成魚で著しく異なる。腹鰭は若魚にはあるが成魚にはない。体長 2mまでになる。

 

 ウパウオ亜目 Gobiesocoidei [ 1科約 36属約 120種 ] 腹鰭は吸盤に変形しており、岩などに吸着できる。背鰭は 1基で、棘条はない。体に鱗はなく、粘液で覆われている。ウパウオ科 Gobiesocidae のみからなり、大西洋・インド洋・太平洋の主に浅海域あるいは潮間帯に分布するが、一部は淡水域にも生息する。日本には 9種が分布している。

 

 ネズッポ亜目 Callionymoidei [ 2科約 20属約 137種 ]( 図 28)

 体に鱗はなく、粘液で覆われている。背鰭はふつう 2基あって、第 1背鰭は 1-4本の柔らかい棘条からなる。インド・西太平洋を中心に世界中の暖海に生息するが、河川に入るものもいる。
  この亜目を代表するネズッポ科 Callionymidae( 約 130種) は、体が縦扁する、鰓孔は小さく、背側にあって上向割こ聞くことや、前鰓蓋骨に 1本の強い棘があることで、もう 1つの科であるイナカヌメリ科 Draconettidae(7種)と簡単に区別できる。ネズッポ類の鰭とその斑紋には性的ニ型が現れ、雄では第 1背鰭・第 2背鰭・臀鰭・尾鰭が大 きく、その斑紋が美しくなる。

 

 ハゼ亜目 Gobioidei [ 8科約 268属約 2121種 ]

 背鰭はふつう 2基ある。腹鰭は胸位で、 1棘 4-5軟条。多くの場合、 左右の腹鰭は癒合して吸盤に変形している。側線系 (感覚管や孔器) は、 頭部にはよく発達するが、体部にはない。鰾はふつうない。最古の化石は後期始新世の地層から発見されている。著しく多様化している。 約 2121種のうち約 200種が淡水産。
  代表的な科は海産魚類の中で最大の種数を誇るハゼ科 Gobiidae( 約 1875 種)である。魚類全体でもコイ科( 約 2010 種、コ イ目) に次いで大きい。ハゼ科魚類の腹鰭はふつう吸盤になっている。 多くの種では、背鰭の椋条部は 2-8本の柔らかい棘条からなり、軟条部とは離れている。ハゼ科は、イソギンポ科 ( スズキ目ギンポ亜目) とともにサンゴ礁で最もよくみられる小型魚類である。
  日本およびその周辺水域からは 312種のハゼ科魚類が報告されているが、サンゴ礁などの浅海域では多数の来知種(新種や初記録種) が確認されている(松浦・瀬能 ,2004) 。

 

<備考>
1931年に理学部動物学科を卒業した富山一郎 (1906-1981) は、ハゼ 類の分類学的研究でよく知られている。冨山は卒業論文、大学院で田中茂穂( 「まえがき」参照 ) に師事した。動物部門は、博士論文『Gobiidae of Japan』(1936) の研究標本を中心に多数のハゼ類の標本を保管している。 富山は 1959 年動物学科卒業の富永義昭 (1936-l 994)( スズキ目スズキ亜目の備考参照 ) を大学院で指導したほか、1949 年以来宮内庁侍従職御用掛を務め、「昭和天皇の御研究のお相手をつとめられ、今上天皇の一連のハゼ科魚類の御研究の助言者、相談相手」でもあった ( 富永 .1981) 。

 

 コモリウオ亜目 Kurtoidei [ 1科 1属 2種 ]

 雄の後頭部には卵塊を付着させるための鈎のようなところがあるので、コモリウオ nursery fishes と呼ばれる。鱗は円鱗。側線は短くて、退化的である。鰾は肥大した肋骨のケースに収納されている。コモリウオ科 Kurtidae だけからなり、インド〜マレー域とオーストラリアの一 部の汽水や淡水域、まれに海域に生息する。

 

 ニザダイ亜目 Acanthumidei [ 6科 18属約 125種 ]

 体は高く、側扁している。口は小さく、前上顎骨は伸出不能か、伸出してもほんのわずかである。背鰭と臀鰭の棘条は発達する。前期始新世以後の地層から化石が発見されている。
  最大の科はニザダイ科 Acanthurldae( 約 72種) で、熱帯・亜熱帯海域に分布する。この科には藻食性の種が多く、このため腸管は長い。

 

 ムカシクロタチ亜目 Scornbrolabracoidei [ 1科 1属 1種 ]

 前上顎骨は伸出可能。前鰓蓋骨と鰓蓋骨の後縁は鋸歯状。 大西洋・インド洋・太平洋の深海に生息するムカシクロタチ Scombrolabrax heterolepis (ムカシクロタチ科 Scombrolabracidae) のみからなる。体長 30cm ぐらいまでになる。

 

 サパ亜目 Scornbroidei [ 5科 45属約 136種 ]

 体はふつう細長いか紡錘形であるが、タチウオ科 Trichiuridae は大変長く、リボン状。前上顎骨は固定され、伸出不可能。下顎を前に出すことができるものがいる。
  最速の魚はこのグループのマグロ類 [ マグロ属 Thunnus (7種) 、サパ科 Scombridae] やカジキ類 [ メカジキ科 Xiphiidae(12 種 )] で、短時間なら時速は60-100km にもなる。漁業資源として重要な種を多く含んでいる。
  最も有名な科はサパ科 (49種)である。この科には典型的な紡錘形のものが多い。背鰭は 2基で、第 2背鰭と臀鰭の後方に 5-12 の小離鰭がある。第 1背鰭、胸鰭および腹鰭を収納する溝やくぼみがある。 紡錘形の体形や鰭の収納装置は高速遊泳への適応と考えられて .いる。両顎ともに伸出不可能。サバ類 (サパ属 Scomber ) ・マグロ類 マグロ属 ) ・サワラ類 ( サワラ属 Scomberomorus) ・カツオ Katsuwonus pelamis など、サバ科には重要な漁業対象種が多い。

 

 イボダイ亜目 Stromateoidei [ 6科 16属約 65種 ]

 咽頭の後方に、内側に歯のような突起の並んだ食道嚢がある。これは消化を助ける役割をもっている。すべて海産。

 

 キノボリウオ亜目 Anabantoldei [ 5科 1 属約 81種 ]

 鰓の上方に空気呼吸のための迷路器官をもつ。すべて淡水産 ( まれに汽水域にも ) 。

 

 タイワンドジョウ亜目 Channoidei [ 1科 2属約 21種 ]

 体は細長く、背鰭と臀鰭の基底も長い。鰭に棘条はない。鰓の上方に空気呼吸のための上鰓器官がある。タイワンドジ.ョウ科 Channidae のみからなる。アフリカとアジア南部の熱帯の淡水域に生息。

 

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