第2部 展示解説 動物界
軟体動物の分類と系統関係

 

貝殻亜門 (Conchifera)の系統関係

 最近の研究例では、無板類、多板綱以外の軟体動物、すなわち「単板綱 + 二枚貝綱 + 吻殻綱 + 掘足綱 + 頭足 綱 + 腹足綱」は単系統群であるという点で一致している。 それらは貝殻亜門 (Subphylum Conchifera) というグループにまとめられている。 Conchifera の名前は「殻」を意味するラテン語のconcha に由来する。

 貝殻亜門は、(1) 殻皮と石灰質の層の2層になった殻 をもつ。 (2)頭部に触角あるいは類似の構造をもつ。 (3)平衡胞 (statocyst) をもつ。 (4)内臓神経のループは直腸の下側を走る (subrectal commissure)。 (5) 口腔に顎板をもつ。 (6) 晶体嚢など胃の内部構造が複雑に分化する、等の特徴によって単系統群であることが支持される(Salvini-Plawen 1988; Salvini-Plawen and Steiner,1996; Haszprunar,2000) 。

 消化管の内部は、食道、胃、対になった消化腺、腸に分化する。食道には、ひだと繊毛帝があり、 dorsal food channel と呼ばれる溝状の構造が形成される点も特徴的である。

 貝殻亜門の内部の系統関係については、 Runnegar and Pojeta(1974) によって化石記録を考慮して提唱 された「直体類 -曲体類仮説」( 図 3A) がこれまで有力であったが、 Waller (1998) は、従来の直体類 .曲体類仮説を否定し、掘足綱と ヘルシオネラ類 (Heldorlelloida 、 単版類型の絶滅したグループ ) を曲体類に含めることを提唱した。またHaszprumr(2000) は、貝殻亜門 = 単板綱 +( 二枚貝綱 +( 掘足綱 +( 腹足網 + 頭足綱 ))) とする関係を公表した。さらに、 Wanninger and Haszprunar(2002) は掘足類の発生過程における筋肉系の発達様式を研究し、頭部牽引筋(cephalic retrator muscle) を見いだしたが、それは二枚貝類にはなく、頭足類と腹足類には見られる。従って、 この形質は、Haszprunar(2000) の結果を支持する。そして、掘足類 の足と頭糸が、頭足類の腕や腹足類の頭部触角と類似の構造と機能 (muscular hydrostat)をもつことを議論した。Steiner and Dreyer(2003) による分子系統解析では、掘足類と頭足類が近縁で あるとの結果が得られている。掘足綱-頭足網-腹足綱の関係は必ずしも定まっていないが、近年のいずれの研究でも「二枚貝 + 掘足類が近縁であるとする伝統的な仮説は支持されていない( 図 3B) 。

 貝殻亜門を構成する各網の内部の系統関係についても、多くの研究が行われている。単板類は現生種の種類が少なく、採集が困難であるため、それらの関係については持に議論されていない。しかし、化石種では、多くの単板類型のグループが記載されており、それらの関係は、軟体動物の進化過程を知る上で重要である。掘足網についてはいくつかの分岐解析が行われており、ツノガイ類(Dentaliida) とハラブトツノガイ類 (Gadilida) の 2つの大きなグループに分けら れるという結果が得られている。 二枚貝綱、頭足綱、腹足網のそれぞれの分類体系と系統関係については下記に述べる。

 

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