第2部 展示解説/鉱物界

REGNUM LAPIDEUM

鉱物の色の多様性
〜化学元素がつかさどる色

 

鉱物の色の不思議

 最後に、同じ鉱物でも不純物として入る遷移元素の違いによって色が違ったり、同じ選移元素でも 鉱物によって現れる色が違ったりする原因について触れておこう。そのために、遷移元素について もう少し詳しく説明する。

 物質の性質を反映する最小単位は各元素の原子 (Al原子、O 原子など) である。原子は陽子と中性 子から成る原子核と、各元素の番号と同じ数の電子から成っている。この中で色に係わるのは電子 である。電子は定員が決まっているいくつかの軌道に属しており、軌道ごとに電子の持つエネルギ ーは異なっている。通常は、電子は軌道の内側から順に定員を満たすように 入っていくが、遷移 元素と呼ばれる元素では、外側の軌道が定員になりながら、内側に空きがあるような状態になって いる。そのため、電子の状態は比較的不安定であり、紫外線や X 線と比べて小さいエネルギーであ る可視光線のある部分(ある色) のエネルギーをもらうだけで電子の状態が変わる(これを励起状態と いう)場合がある。電子のエネルギーは飛び飛びの段階的な数値しか採ることしかできない(これを エネルギー準位という)ので、区切りのよい次のステップに上がるだけの分のエネルギーを吸収し、 それが可視光線のある部分のエネルギーに相当している場合には選択的吸収をして、われわれには残 存色がみえるのである。遷移元素の中でも、3d 軌道と呼ばれる軌道に空きがある元素は鉱物の色に 係わる場合が多い。

 ベリルのように、同じ鉱物でも不純物として入る遷移元素が違うと色の違う場合がある。それは、同 じ鉱物の中に入っても、遷移元素の種類によって電子が励起状態になって次のエネルギー準位にあがる ためのエネルギーが異なるため、それぞれのエネルギーに対応する色のエネルギーを選択的吸収する 結果、違う色になるためである。

 また、同じ遷移元素であっても、含む鉱物によって全く違う色になる場合がある。たとえば、Fe は アルマンディン・ガーネットに含まれる場合には暗赤色、オリピンに含まれる場合には黄緑色、 ベリルに含まれる場合には水色になる ( 図 11-1) 。

 これは、周りの結晶構造の影響によって、同じ 元素でも電子が次のエネルギー準位になるためのエネルギーが変化するからである。同様に、 Cr は 鉱物によって、鮮やかな赤色の原因 ( コランダム (ルビー)、パイロープ・ガーネット (Pyrope Garnet 苦まん柘榴石) 等 ) か、鮮やかな緑色の原因 (ベリル (エメラルド)、ジェイダイト(Jadeite ひすい 輝石) 等) のどちらかになる場合が多い遷移元素である( 図 11-2) 。

 また、このように鉱物によって結晶構造の影響が違うため、たとえば遷移元素が着色原因である緑色の 鉱物とひとくちにいっても、V によるグロッシュラー・ガーネット(Gloss1liar Garnet 灰ばん柘榴石) やグリーン・ベリル、前述した Cr によるエメラルドやジェイダイト、Fe によるグリーン・サファイア やオリビン、 NiによるクリソプレーズCrysoplase 石英の微結晶で、Chalcedony(玉髄)のー種、Cu によ るマラカイトやダイオプテーズ (Dioptase 翠銅石) と様々である(展示標本目録参照)。

 地球にある鉱物は現在、5000種近くを数え、現在でも毎年、新鉱物が報告されている。また、現在知ら れている鉱物でも、他色鉱物の場合には新たな色が報告される可能性を秘めている。実際に、ゾイサイ ト (Zoisiteゆう簾石 ) やグロッシュラー・ガーネットは、 20 世紀半ばにそれぞれ青紫色と緑色が 新しく見つかり、それぞれタンザナイト (Tanzanite)、ツァボライト(Tsavorite) --いずれれも宝石名− として一大ブームを起こした(図 12)。今後も、特に同じ結晶構造を持つ複数の鉱物群であるガーネット・ グループやトルマリン・グループの鉱物では、新しい色が発見される可能性が大いにある。

 鉱物の色が今後ますます多様になり、これからもさらに人々を魅了していくことは想像に難くない。

 

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