第2部 展示解説/鉱物界

REGNUM LAPIDEUM

鉱物の色の多様性
〜化学元素がつかさどる色

 

鉱物の着色原因

 ここで鉱物の選択的吸収を起こす原因を概説する。
 光は、各色(各波長)によって異なるエネルギーをもっている。長い波長ほどエネルギーは小さく、 短い波長ほどエネルギーは大きい。鉱物に可視光線が当たって、ある色(たとえば黄色)に相当す る大きさのエネルギーを選択的吸収したとき、その鉱物は白色光からある色を取り除いた色(たとえ ば白色光から黄色を取り除いた青色)に着色してみえる。この選択的吸収を起こした要因を着色原因 と呼ぴ、鉱物には①遷移元素②電荷移動③着色 中心など様々な着色原因がある。

 鉱物の地色の場合、最も重要な着色原因はチタン(Ti)、パナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、 鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)という8つの遷移元素と呼ばれる元素によるものであ る。遷移元素は、電荷移動や着色中心が着色原因である場合にも密接に係わっていることが大半である。

 そもそも鉱物は、家になぞらえるとすると柱の組み立て方(結晶構造)と材料(構成成分)で決まり、 構成成分は元素の組み合わせである化学式によって表される。例えば、宝石のルビーやサファイアの 鉱物名はコランダムであり、その構成成分は化学式で、Al2O3と表される。これは、+3価の Al(Al3+) が 2 個と、-2 価の O(O2-) が 3 個という組み合わせでひとつの単位を作っていることを示している。

 同一の鉱物ならば同色を示すもの、たとえば着色原因である遷移元素が主要構成元素の中に含まれてい る鉱物を、白色鉱物と呼ぶ。例としては、アルマンデイン・ガーネットは Fe3Al2(Si04)3 という化学式 で表され、Fe2+が暗血色の原因となっている。白色鉱物の特徴は、主成分として着色原因を含んで いるためにカラー・バリエーションが少ないことにある。たとえば、ロードナイト (Rhodonite バラ輝石)という桃色の鉱物は、主成分の Mn によって着色しており、Mn は一般に赤色や桃色の原因 となる化学元素なので、カラー・バリエーションは赤〜桃色となる。青色や緑色のロードナイトとい うものはありえない。白色鉱物には、他にオリピン(Olivine カンラン石 :Fe2+ によって黄緑色) やコンネライト (Connelite コンネル石 :Cu2+によって 青〜青緑色 ) などがある ( 図 9) 。

 それに対してルビーは、本来、純粋なコランダムであるならば無色透明であるはずであるが、天然で は数 % 程度までは Al3+ が Cr3+に置き換わることがあり、この Cr3+ が赤い着色の原因となって いる。このように、本来の構成要素以外が原因となり着色しているもの、たとえば遷移元素が主要 構成元素の一部を置き換えて不純物として入り、それが着色原因となっている鉱物を他色鉱物と呼ぶ。 他色鉱物の特徴は、入りうる不純物元素によって色が変わるので、カラー・バリエーションが豊富なことにある。例としては、コランダムは無色、赤(ルビー) のほかに青(ブルー・サファイア)、黄、橙、緑、紫等、各色があることが知られている。

 また、他色鉱物においては、コランダムのように鉱物名は一般的にはなじみが薄く、その宝石名 (ルビーやサファイア)の方がよく知られているという傾向がある。その理由は、鉱物名は主要構成 元素(と結晶構造)が同じものに対して名付けられるが、宝石名は同じ鉱物でも色が違うものには違う名前がつけられることが多いからである。ベリル(Beryl 緑柱石)の場合も、宝石名である アクアマリン (aquamarine:Fe2+によって水色)とエメラルド(emerald :Cr3+によって緑色)など の名前の方がよく知られている(図 10)。

 二番目の電荷移動が着色原因になっている例には、ブルー・サファイアで、2つの Al3+を置換して不純物として遷移元素である Fe2+と Ti4+が入り、この両者の間で電荷が移動して Fe3+と Ti3+になることで青色になっている場合があげられる。この電荷移動に必要なエ ネルギーが可視光の黄色に相当するエネルギーなので、私たちには残存色の青色に見えるのである。

 三番目の着色中心が着色原因になっている場合には、たとえば不純物として Fe が入っており、さらに格子欠陥があることで、紫色になっているアメシストがある。格子欠陥 とは、理想的には鉱物の結晶構造は乱れもゆがみもなく、ある構造を正確に繰り返すはずであるが、実際には一部分が乱れたり欠損したりする場合があり、その現象を言い表している。天然ではしばしば起こり、特に点状の 格子欠陥は、その部分が光の吸収を担うことがあるので着色原因となることがある。

 

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