第1部 第1章

自然の体系

大場 秀章

 

自然の体系とは

 「自然の体系」とは、リンネが出版した Systema Naturae の日本語訳である。 ラテン語の systema( 体系)とはギリシア語由来の語で、個々別々のものからなる全体、 あるいは個別のものを統ーした全体をいった。 統一するということから、そこには一定 の考え方で矛盾のないように組織された、例えば理論や思想、全体 をいう言葉にもなった。リンネのいう体系とは自然を構成する物体すべてを統一的に組織 する学説である。 すべての物体を統一的に組織する理論がすなわち分類理論であり、 その理論をすべての物体に当て嵌めていくことで、自然の統一的な全体像が描けると考えたものと思われる。

 1735年に『自然の体系』(初版)を著わしたリンネは、その中で叡智における第一歩は 事象そのものを知ることで、この考え方は事物に対する正しい観念をもつということであ るという。彼は自然物について、それが区別され、それらを体系的に整理し、適当な名称を 与えることによりその存在が明らかになる。それゆえ、分類と名称を与えることは自然 科学の基礎となる、と書いている。また、物体の部分部分を視覚により識別 し、記述し、3界の区分にしたがい、これらすべてを命名し、体系化することが、自然科学 であり、自然科学とはこのような思慮をもって実施される学問である、と述べている。

 リンネが生きた18世紀は、すべての自然物は神の創造によって造られたと信じられていた。 リンネも根本的にはそれを否定しなかった。神の創造を前提とする当時の環境の中で、自然 の体系はどういう意味を有していたのだろうか。それは単なる創造物のカタログ化であったの だろうか。 17世紀の哲学者フランシス・ベーコン (Francis Bacon) が著わした『ノーヴム・ オルガーヌム』(新機関説) が意図した思想、すなわち神の創造のプランを知る新しい機関、 つまりは道具あるいは装置、として体系化はとらえられていたのではないだろうか。

 リンネのいう体系化とはすべての自然物の分類体系上への位置づけと命名を意味していたと いえるだろう。だが、リンネの場合は、鉱物界、植物界、動物界の 区分自体は明瞭で問題 とはならなかった。したがって分類体系上への位置づけとは自然物を調べて鉱物、植物、動 物界に分類することではなく、それぞれの界の 分類体系に正しく位置づけ、統一的な基準 にしたがって命名することが研究の主たる目的であった。

 リンネ以降、自然史で、system(体系) といえば、それは分類体系をいうことになった。 生物、そして鉱物でも、研究の進展によって判明した新事実を反映した分類体系が提唱され、 旧来の体系に置き換ることで、分類体系はその時代の生物学なり鉱物学の到達点を提示して いたのである。その意味でも分類体系はジェネラル・レファレンスの役割りをも果たして いるものといえるだろう。リンネが彼の「自然の体系」の必要性として考えたこともそれ ではなかったかと思う。

 

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