4.人と貝のかかわり


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絶滅危惧種

 近年、日本全体あるいは日本各地においてレッドデータブックの編纂が進められています。レッドデータブックとは絶滅の危険がある生物種のリスト(レッドリスト)を掲載した出版物のことです。どの地域のリストにも必ず多数の貝類が掲載されており、日本の貴重な貝類が危機に瀕していることを示しています。環境破壊先進国の日本は絶滅危惧種の種類の多さでも世界のトップクラスです。

 絶滅危惧種の多い貝類の代表例は陸産貝類です。例えば、小笠原のエンザガイ類Hiraseaオガサワラヤマキサゴ類Ogasawarana、カタマイマイ類Mandarinaはほとんど全ての種が絶滅危惧種に指定されているか、あるいは既に絶滅しています。陸産貝類は移動能力に乏しいため、多くの種が比較的狭い範囲に限定されています。特に島に棲息する陸貝は種の集団のサイズが小さく、周辺地域からの新規集団の供給がないため絶滅しやすいと考えられます。

 淡水の貝類では、大型淡水二枚貝も著しく減少しています。琵琶湖固有種のイケチョウガイHyriopsis schlegeliは既に絶滅し、カラスガイCristaria plicata(図4-10)も絶滅が危倶されます。イシガイ科Unionidaeの場合はグロキジウム幼生が魚類に寄生して成長するため、宿主となる魚類が保護されることも必要です。ヒラマキガイ科PlanorbidaeのカワネジガイCamptoceras hiraseiも近年見られなくなった淡水貝の代表例です。


 
 河川に生息する貝類は河岸のコンクリート化による生息環境の破壊の影響を受けています。河口域ではタケノコカワニナStenomelania lebbecki、ワカウラツボIravadia(Fairbankia)sakaguchii、カワザンショウガイ科Assimineidae、オカミミガイ科Ellobiidaeなどの多くの種の絶滅が懸念されています。

 内湾性の海産貝類は埋め立てなどにより、生息地が急激に失われてきました。クロヘナタリCerithidea largillierti、シマヘナタリCerithidea ornataは絶滅寸前です。ヒロクチカノコNeritina(Dostia)cornucopia、イボウミニナBatillaria zonalis、フトヘナタリCerithidea rhizophorarum、ヘナタリCerithidea cingulata、ドロアワモチ科Onchidiidaeなどの干潟の貝類も保全が必要です。ゴマフダマNastica tigrina、サキグロタマツメタEuspira fortunei、オガイCantharus cecillei、ヒメアカガイScapharca troscheli(図4-11)、ビョウブガイTrisidos kiyonoi、ハイガイTegillarca(図4-12A)、ササゲミミエガイEstellarca olivacea、ヒメエガイNipponarca bistrigata、ヤミノニシキ・アワジチヒロVolachlamys hirasei、イセシラガイAnodontia stearnsiana(図4-12B)、ムラサキガイSletellina diphos、アケボノキヌタSoletellina boeddinghausi、シオヤガイAnomalocardia squamosa(図4-13)、イチョウシラトリPistris capsoides、オオノガイMya arenaria oonogaiなども絶滅危惧種です。


 

 

 
 浅海に棲息する貝類では、椅麗な砂浜にしか生息できない貝類も影響を受けています。アリソガイCoelomactra antiquata(図4-14)はかつては食用に採取されるほど普通でしたが、今となっては見る影もありません。ベニガイPharaonella sieboldii(図4-15)などの美しい砂浜に棲む貝類も同様の運命にあるのかも知れません。


 

 
 食用種も環境悪化の影響を受けています。最も有名な例は、新腹足類の生殖器官に対する環境ホルモン(内分泌攪乱物質)の影響です。雌個体に雄性の生殖器が形成され産卵障害が起こる現象はインポセックス(imposex)と呼ばれます。食用種ではバイBabylonia japonica(図4-16)がほとんど漁獲できなくなっていますが、これは環境ホルモンの影響であると言われています。


 
 二枚貝類では、タイラギAtrina(Servatrina)pectinata、ミルクイTresus keenae、アゲマキSinonovacula constricta、ウミタケBarnea(Umitakea)dilatata、マテガイSolen strictusなどが減少していると言われています。ハマグリMeretrix lusoria(図4-17、4-18)は西日本の一部には残っていますが、少なくとも東日本では絶滅しました。イタボガキOstrea denselamellosa(図4-19、4-20)もかつては養殖が試みられるほど普通の貝でしたが、絶滅寸前です。食用貝の減少には、乱獲と環境の悪化の両者の要因が考えられます。


 

 

 

 



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