2.貝殻の形の多様性


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貝のサイズ

 生物の大きさは驚くほど様々です。軟体動物の大型種といえば、ダイオウイカ科Architeuthidaeのダイオウイカ類Architeuthisが他を圧倒しています。腕も入れた全長が最大で17mにも達します。その他も大型種の上位はすべて頭足類によって占められます。ミズダコOctopus(Enteroctopus)dofleiniは全長3m、テカギイカ科GonatidaeのニュウドウイカMoroteuthis robustaも全長2m以上に達します。

 石灰質の殻を持つ軟体動物の最大種は、ドイツの白亜紀の地層から発見されたアンモナイト類の1種です。破損した状態で1.7mもあり、完全な殻を復元すれば、殻径が2mを越えると言われています。

 現生貝類の最大種はオオシャコガイTridacna gigas(図2-59)です。最大記録では殻長130cm以上に達します。現生腹足類の最大種はアメフラシ類Aplysiaの1種で体長1mに達します。貝殻を持つ種ではオーストラリア北部のアラフラ海に棲息するアラフラオオニシSyrinx aruanus(図2-60)です。最大記録では殻高76cmに達しています。第2の種はカリブ海に棲息するダイオウイトマキボラPleuroploca giganteaで最大記録では殻高61cmに達しています。


 

 
 国産で大型の現生貝類といえば、二枚貝ではシャコガイ科Tridacnidae、ハボウキガイ科Pinnidaeの数種(図2-61)、巻貝では、トウカムリガイCassis cornurus(図2-62)、ヤコウガイTurbo(Turbo)marmoratus(図2-63)、テングガイChicoreus(Chicoreus)ramosus(図2-64)、ラクダガイLambis truncata sebae、ホラガイCharonia tritonis(図2-65)、スジウズラTonna olearium(図2-66)などがあげられます。


 

 

 

 

 

 
 成貝として世界最小の貝は恐らくミジンワダチガイ科Omalogyridaeの貝類でしょう。成貝でも殻径0.6mm程度にしかなりません。そして、その幼生の貝殻は驚くほど小さく、約0.15mmです。その大きさは他の貝類の卵の直径を下回ります。ミジンワダチガイ類の幼生の貝殻(原殻)が世界最小の貝殻です。

 小型の貝類は通称「微小貝」と呼ばれます。しかし、「微小」の程度は人によって異なります。一般的には5〜6mm以上の貝が微小貝と呼ばれることは稀です。学術的な生物の大きさの区分では、1mm以上の大きさの底生生物はマクロベントス(macrobenthos)、1mm以下の底生生物はメイオベントス(meiobenthos)と区別されています。貝類では1mm以下で性成熟に達する種は多くありません。メイオレベルに含まれる貝類が真の微小貝と呼ぶべき存在といえるでしょう。


貝殻の性的二型

 貝類には雌雄異体の貝類が多数みられます。その場合、貝殻にも雌雄の差が表れる場合があります。そのような現象は性的二型(sexual dimorphism)と呼ばれます。貝殻の性的二型は体内受精型の雌雄異体の巻貝にしばしば見られます(図2-67)。


 
 大型の貝では性的二型が顕著になります。例えば、トウカムリCassis cornutus、ホラガイCharonia tritonisなどでは、雌の方が殻が太くなります。これは他の新生腹足類にも同様に当てはまる現象です。それは恐らく生殖器官の構造に由来しています。外套腔内には、雄には前立腺、雌には蛋白腺と卵殻腺が含まれていますが、一般に雌の輸卵管の付属腺の方が太いからです。

 スイジガイLambis(Harpago)chiragra(図2-68)は雄の方が小さく、殻口の色彩が濃くなります。かつては雄は別種と考えられてシワクチガイLambis(Harpago)rugosumという名前が与えられていました。


 
 頭足類では、オウムガイ類Nautilusの雄の殻は雌の殻よりも大きくなります。アンモナイト類には同種内にサイズの二型があるものがあり、性的二型と考えられています。大きい方はマクロコンク(macroconch)、小さい方はミクロコンク(microconch)と呼ばれています。種によってはミクロコンクの殻口にへら状のラペット(lappct)が形成されることがあります。

 二枚貝類には性的二型はほとんど見られません。例外は南アフリカに分布するThecalia とカリフォルニアに分布するMineriaという貝類で、雌の殻の腹縁にへこみが形成され、その中で幼貝を保育する習性を持っています。従って、雄と雌では殻形が全く異なります。その他には、イシガイ科Unionidaeの雌は鰓に幼生を保育するための保育嚢(marsupium、複数形marsupia)を形成するため、雄の殻よりも膨らみが強くなる例が知られています。




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