モノは複製され、出来事は復元、再現、再演される。しかし、目的や意図次第では、たちまちに「捏造」として弾劾される。旧石器発掘の捏造は大きな社会的話題となり、日本考古学界の威信をひどく傷つけた。この出来事の波紋の大きさは、遺物捏造事件として世界的に知られる、英国のピルトダウン原人事件にも匹敵する。「遺跡」の捏造に使われた旧石器(おそらくは縄文時代のホンモノの石器)のレプリカだけでなく、捏造された現場もまたそのままレプリカとして保存されている。捏造であれ、複製や復元や再現であれ、「コピー」の入れ子状連鎖には、オリジナル/コピーの二項対立図式で把握しきれない部分がある。 8-1 上高森「遺跡」の両面加工石器六点(レプリカ) 長約10、国立歴史民俗博物館蔵 両面に加工が施されている。形態的にみて旧石器かどうか疑問視されている。もとになったものの信憑性が崩れれば、そのレプリカもまた学術的な価値は烏有に帰する。もっとも「事件」の証拠物として、記憶の風化を妨げる上では、完全に無価値とは言えないのであるが。 8-2 「遺跡捏造」の事件を報じる毎日新聞記事 捏造事件を最初に報じたのは毎日新聞である。取材チームは2000年10月22日早朝宮城県の上高森遺跡の現場で一人の考古学者が石器を自ら地中に埋めるところの一部始終をビデオに収めた。この考古学者は自ら埋めた石器を後日掘り出し、報道陣を前に70万年以上前のものであると公表した。同年11月4日取材チームに対し自ら遺跡を捏造したことを白状した。 (西秋良宏) 8-3 ピルトダウン原人骨(レプリカ) 石膏、東京大学総合研究博物館蔵 |
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