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CONTINUOUS ACTIVITY

新井清一
Kiyokazu Arai / ARAI-ARCHITECTS


建築の創造は、長い歴史の上でのある一定の期間を走るマラソンランナーに例えたらおかしいであろうか。つまり、区切ることのない連続性の中にある試行錯誤の上での創作活動である。ある時は、文章で表現するであろう。またドローイングとしても成り立つし、そしてコンペの案としても.....。
更に、たまたまそれは、現実のものとして建つ。
連続するコンセプト、及びその手や頭に残った感覚が次の作品を呼び起こしてくる。
ここに紹介する2点の作品は、何れも現実化されなかった案であるが、この遺伝子は少なくともこれに携わった人々(私を含む、スタッフ、学生等々)の中に残っている。そしてその核に触れるが如く、次の素粒子が飛び交った時、エッセンスが増幅するのである。
私の場合、全てを現実性という方向を見据えて遂行しているわけであるから、バーチャルは、必ずリアリティになる。リアリティは脳という細胞を通して、再び創造というブラックボックスの中で消化され、吐き出されてくる。その過程がおもしろい。バーチャルを作り出せ、存在させることが出来る。
その立場にいることは、少なくとも幸せに思える。この現実に感謝したいのである。

新井清一

横浜国際旅客ターミナル内観外観
横浜国際旅客ターミナル
内観/photo. 今村壽博
外観/photo. 平剛
横浜国際旅客ターミナル
ドローイング

横浜港国際旅客ターミナル国際設計競技

イントロダクション
開港以来横浜は、その時代における変遷の断片を重複しながら現在にその軌跡を残している。
横浜に育った私の子供の頃の港(水際)というイメージは、重工業のクレーンの列柱が立ち並ぶシーンであり、倉庫群とトラックが醸し出す殺伐とした雰囲気であった。しかし、近年の産業構造の変革は人々を水際へ引き戻す傾向にある。その中で500mもの長さで突出する桟橋は何れこの場に多大なコンテクストを与え、ここに集まる人々にとっての水際の風景に大きな影響を及ぼすものになるであろう。
ここに提案する横浜港国際旅客ターミナル国際設計競技案は、それら人々に広く開かれたものであり将来に向けて港横浜に存在する新たなランドスケープとなることを目指したプロポーザルである。

(1) 建築の可能性・分析
approach:大桟橋埠頭に計画される本プロジェクトは如何なる建築が建てられようともその長さ故、景観の流れを分断してしまう懸念がある。
direction:その存在を感じさせないもの。大地から浮遊するようなもの。あるいは水のように透明性を持ったもの。

(2) ランドスケープとしての回答
approach:建築としてではなく……
direction:連続したランドスケープのうねり。編み込まれたスラブ。波に佇む島々。

(3) プログラム
approach:軸・都市軸から開かれた外洋に向かって・・・・・
direction:敷地の持つ直線的な軸をふまえながらも、それをDatum(基)として穏やかに港の入口(ベイブリッジ)方向に軸を変化させることで、大海原に向かって開かれた平面計画となっている。
approach:造船技術に支えられた建築(確固たる構造的戦略)
direction:建築が浮かび上がり、大地を開放する劇的なシーン。我々はその風景を本プロジェクトにて創る手がかりとして、造船技術という分野からアプローチを試みている。建築(編み込まれたスラブ)がダブルハル構造の“かたまり”に持ち上げられている姿、そこに我々の夢が託されている。
(4) 構造的6つのかたまり
approach:構造が物語る歴史的コンテクスト
direction:本プロジェクトは“6つのかたまり”をスラブの支えとすることが、バランスの良い平面的構造計画を成り立たせている。期せずして6つのかたまりは横浜開港の歴史の起点となる1858年の安政5カ国条約の日本を入れて6カ国と見立てることができよう。
CREDIT

プロジェクトチーム/今村壽博、鄭 秀和、遠藤貴也、東条昌一、大堀 伸、浅井 薫、井原誠志
構造/今川憲英(TIS&PARTNERS)
サポートチーム/梅崎照城、成田相勲、木下謙一、田中陽明、鮫島正二郎、平 剛、
小津誠一、竹川政夫、嶺 智之、鈴木真子、石田 潤、墨 麻子、西山真弓、金子 葉、田島芳竹
協力/鐘泰(建築事務所)
模型写真/平 剛(6×7判/外観)、今村壽博(35mm/内観)
出展協力/伊藤大輔、伊藤亮介

霧島彫刻ふれあいの森アートホール公開プロポーザル

霧島彫刻ふれあいの森アートホール外観
霧島彫刻ふれあいの森アートホール
外観/photo. 平剛
1 コンセプト

広大な自然の一角に降り立った巨大な彫刻として、そしてランドスケープの一部として存在する建築。単純な円形のスラブが地面から反り上がり、開口が切り込まれることにより、内部空間でもあり外部空間でもある『大地のスペース』が生まれる。自然(環境)と建築(人の作りしもの)との呼応と調和、そして主役となる人々との対話を優先とした新たな芸術拠点の創造を、本計画で試みる。

2 概念アプローチ

ランドスケープ(周辺環境)の延長として、機能(展示ホールあるいはカフェ)を配置する。そこには壁・柱など建築的なエレメントは存在せず、視覚の広がりが維持される。スラブの開口部により切り取られた空は、遮るモノがないままに、人々の視覚に入り込む。スラブ表面は持ち上げられたり切り取られたりすることにより様々な表情を出す。
自然(=風・光・風)との調和。

空:都会のくすんだ空とは違った透き通った空。
風:高原のさわやかな風を、人々に肌で感じてほしい。
光:自然の光は季節や時刻により様々な表情をつくり、人工のライティングでは体験できないシーンを演出する。

3 計画アプローチ

外観
外観/photo. 今村壽博
建物部分は屋外展示場への出発地点であり、左右に長く伸びてゆくスロープはスムーズな歩行者動線を生み出す。敷地内への車の進入を行わず、施設利用者は歩くことによりランドスケープとアートを体験する。

霧島彫刻ふれあいの森アートホールは、鹿児島県主催のプロポーザルコンペである。槙文彦氏を審査委員長に迎え、霧島の豊かな自然を生かした新たな芸術拠点としてシンボル性の高いセンター施設として、また芸術性、文化性、創造性の高いものを求む主旨により、広く一般に公開されたコンペである。延べ床面積1800〜2000m2。900m2程度のギャラリーと200m2程度の収蔵庫を中心に、カフェテリア、ショップ、会議室及び管理事務室等が要求された。191案の応募の中から8案が入選。この案は優良賞として選ばれた。

CREDIT

浅井 薫、今村壽博、梅崎照城、滝田英之、中島正陽、宮田稔、金子園美、佐久間桃子、牧野博昌、福井哲平、杉山卓広, Associate Company / 三井不動産建設
模型写真/平 剛(6×9判/外観)、今村壽博(35mm/内観)
出展協力/伊藤大輔、伊藤亮介


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