所蔵標本は、分類学だけでなく、 生物の多様性や環境保全の問題などを研究する上でも極めて貴重である。 たとえば、日本産の淡水魚類標本には昭和初期までに採集されたものが 多数含まれており、環境破壊が今日ほど進んでいなかった時代の 形態や生態の多様性の状態や自然分布について、貴重な情報を提供してくれる。 過去の様々な情報が保存されているのである。
クロダハゼ
Ctenogobius kurodai Tanaka, 1908
ヤツハゼ
Cryptocentrus yatsui Tomiyama, 1936
ナメライワシLeptoderma Lubricum Abe et al., 1965
コンニャクハダカゲンゲ Melanostigma orientale Tominage, 1971
当部門は、箕作佳吉博士 (1858〜1909) や田中博士らが蒐集した 多くの魚類学関係の図書と冨山、富永両博士の全ての蔵書も保管している。 単行本約1200冊、別刷約8000点である。 この中には、
田中茂穂、
冨山一郎、
阿部宗明、富永義昭ら諸博士の魚類目録 (標本台帳)の一部。
“Histoire naturelle des poissons”
by Cuvier and Valenciennes (1828-1849) の一部
魚類以外にも無脊椎動物や両生類、ハ虫類など多数の標本が保管されている。 主として東京帝国大学理科大学紀要に発表された分類学の論文に 使用されたもので、多数の模式標本が含まれている。 生物学科第一回卒業生の飯島魁博士 (1861〜192l) の海綿動物約350点をはじめ、 佐々木望博士の頭足類などを含む軟体動物約3000点の他、昆虫類約1000点、 その他の無脊椎動物約3000点、両生類・ハ虫類約1万点などである。 しかし魚類標本に比べ、整理の状態は良くない。 現在、国内外の研究者の協力を得て、標本の整理・管理を行っている。
これらの膨大な標本、図書、資料などは模式標本室を含め いくつかの資料・標本庫に保管されているが、いずれも飽和状態である。 模式標本はいうまでもないが、その他にも貴重な標本が多く、 また多くの貴重な図書や資料が所蔵されているので、 国内外の研究者の照会や依頼に対応するのに追われている。
部門の現状は、研究分担者や客員研究員として20年以上にわたって 動物標本のキュレーションに携わった富永博士の次のことばに尽くされる。
“この様な貴重な標本を、いかに賢く堅実に守り継ぐかが、 最大の課題である”
(東京大学総合研究資料館ニュース、10号、1987年)
模式標本 (type) 、なかでも学名を担う模式標本 (name-bearing type) は 「種」の原典として命名法上極めて重要なものである。このため、 国際動物命名規則 (1985) では博物館など研究機関に対して これら学名を担う模式標本の 保存・管理・情報公開・研究促進体制の整備を求めている (勧告72G) 。
本展示は、 部門所蔵のハゼ類の模式標本 に関する情報を公開したものである。
冨山一郎博士 (1906〜1981) −日本のハゼ学の創始者−
日本産魚類を精力的に研究して日本の魚類学の基礎を築いた 田中茂穂(明治37年理科大学卒)は、 黒田公の庭園から採集されたハゼを1908年に新種 クロダハゼ Ctenogobius kurodaiとして発表した。 これが日本人による初めてのハゼの新種記載である。 日本産魚類の分類学的研究の中で、田中は170の新種を記載をしているが、 そのうち13種がハゼ類であった。
1930年頃までの日本のハゼ類の分類に関する研究としては、
動物部門には田中・冨山の記載した種を中心に約30種の ハゼ類の模式標本が所蔵されている。
**1. Eleotris fortis Tanaka, 1912 "Okame-haze" 2. Ophiocara gracilis Tanaka, 1909 "Tanago-modoki" 3. Apocryptodon punctatus Tomiyama, 1934 "" *4. Chaenogobius cylindricus Tomiyama, 1936 "Kiseru-haze" *5. Chaenogobius isaza Tanaka, 1916 "Isaza" 6. Chloea senbae Tanaka, 1916 "Senba-haze" *7. Cryptocentrus oni Tomiyama, 1936 "Oni-haze" *8. Cryptocentrus yatsui Tomiyama, 1936 "Yatsu-haze" 9. Ctenogobius katonis Tanaka, 1908 "Kinkan" *10. Ctenogobius kurodai Tanaka, 1908 " " 11. Eleotriodes puellaris Tomiyama in Tomiyama and Abe, 1956 "Otome haze" **12. Eviota grammistes Tomiyama, 1936 "Ichimonji-haze" **13. Eviota macrophthalmus Tomiyama, 1936 "Oome-haze" **14. Gobiodon gnathus Tomiyama, 1934 *15. Gobius ornatus masago Tomiyama, 1936 "Masago-haze" *16. Lubricogobius exiguus Tanaka, 1915 "Midin-beni-haze" 17. Luciogobius albus Regan, 1940 " " 18. Luciogobius pallidus Regan, 1940 " " *19. Oxyurichthys saru Tomiyama, 1936 "Saru-haze" *20. Parioglossus dotui Tomiyama in Tomiyama and Abe, 1958 "Satsuki haze" 21. Rhinogobius barbatus Tomiyama, 1934 " " 22. Rhinogobius fluviatilis Tanaka, 1925 "Yoshinobori" **23. Rhinogobius hoshinonis Tanaka, 1917 "Hoshino-haze" *24. Sicydium japonicum Tanaka, 1909 " " ***25. Tridentiger kuroiwae Jordan et Tanaka, 1927 " " 26. Tridentiger nudicervicus Tomiyama, 1934 " " **27. Valenciennea phaeochalina Tanaka, 1917 "Taduna-haze" 28. Waitea parvida Tanaka, 1915 "Kasuri-haze" *を付けたものには、以下の情報が含まれている。 模式標本の黒白写真 模式標本のレントゲン写真 模式産地 原記載(及び図) **所在不明 ***Carnegie Museum
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