新大陸文明の形成過程を研究する目的で始められたアンデスの学術調査は、 1958年、ペルー、ボリビア、チリをかけめぐり 小規模な試掘を交えた一般調査を行ったことに始まる。 この結果を踏まえてペルー中部高地東斜面のコトシュ遺跡、 エクアドルとの国境近くの海岸地帯にあるガルバンサル及び ペチチェ遺跡における調査が1960年に行われた。 これらの調査の成果から、 特に文明形成の萌芽期ともいえる形成期の遺跡に焦点が当てられ、 コトシュ遺跡の調査を核として、 1963年、1966年、1969年に渡る発掘調査が継続された。 この間、コトシュ遺跡周辺に位置するシヤコト、ワイラヒルカ、 サハラパタク各遺跡、北部高地東斜面のカンチャリン遺跡、 北部高地ラ・パンパ遺跡、中部海岸地帯のラス・アルダス遺跡 などの広い地域に渡る形成期の遺跡にも並行して調査のメスが入れられた。
コトシュ遺跡では「交差した手」のレリーフを持つ 無土器時代の神殿を発見して アンデスの先史文化の解明に大きな足跡を残している。 調査の前後の期間は各地域の一般調査を行い、 現地の研究者と共に著名な遺跡を踏査し、 石彫の拓本など多くの貴重な資料を収集している。 以上が第1期として東京大学アンデス地帯学術調査団 (団長・石田英一郎教授、泉 靖一教授) によってもたらされた資料である。
第2期は寺田和夫教授を団長とする日本核アメリカ (中米・アンデス) 学術調査団による調査の成果である。 第1回の調査は、1969年に小規模な発掘の行われた ラ・パンパ遺跡の本格的な発掘調査が1975年に行われた。 次いで1979年にはさらに北の高地へと移動することとなった。 エクアドルと国境を接するカハマルカ県にあるワカロマ遺跡の調査である。 大きな建築遺構を伴うワカロマ遺跡の調査は 1シーズンで終了させることができず、 1982、1985、1988、1989年に渡って継続調査が行われることになる。 1982年にはワカロマ遺跡に近接するライソン遺跡、 1985年にはセロ・ブランコ遺跡、 1988、1989年にはクントゥル・ワシ遺跡の調査が 並行して行われそれぞれ大きな成果をあげることとなった。
第3期は、寺田教授の跡を引き継いだ、大貫良夫教授を団長とする 東京大学古代アンデス文明調査団が1989年から現在にいたるまで行っている クントゥル・ワシ遺跡を中心とする発掘調査の成果である。 古くから知られている遺跡に科学的な調査のくさびを打ち込んだ発掘は、 複雑に絡み合った大規模な遺構とそれに伴う多くの遺物、 特に形成期の墓から初めて金製品の出土など、アンデスの形成期研究には 欠かすことのできない大きな成果があげられている。 現在収蔵している資料の大部分は、 以上のような調査研究によってもたらされたものであり、 アンデス考古学の研究上貴重な資料である。 土器を主体として石器、骨角器、布、拓本などがあり、 その他多くの写真・図面からなる調査記録から成っていて、 これらの資料は現地政府の許可を得て当部門で保管・管理している。
東大調査団が大規模に調査を手掛けて遺構の構造が判然となった 遺跡の多くは調査団の手で整備を行い、 遺跡公園として多くの人々に活用されている。 また、クントゥル・ワシ遺跡では博物館を建造し、 これを地元に寄贈、その運営に関して指導協力している。
日本の考古遺物を見慣れた目にとって、 アンデス地帯から出土する遺物はかなり変化に富んだものに見える。
紀元前1500年頃のシヤコト遺跡から出土した刻文に赤色顔料を充填した 三角形をした土器が、 同じ時代のコトシュ遺跡からは舟のような形の鉢や無頚壷とよばれる、 我々が日常的に見ている壷から首をはずしたような形の壷等が出土し、 多くの研究者の注目を集めた。 いずれもアンデス地帯では最も古い土器の一つである。 紀元500年頃の南海岸地域のナスカ時代の遺跡からは、 多色のペイントで描かれた文様を持つ鉢や壷が発見され、 同じ時期の北海岸地域ではモチーカ式と呼ばれる、 人や神像をかたどった象形土器が出土している。 海岸地帯の砂漠にある遺跡では有機物の保存がよく、 バラエティに富んだ布製品もたくさん出土している。 神殿など特殊な建築に伴って祭祀的な意味合いの強い石彫が 数多く発見されているが、 これらの拓本もクントゥル・ワシ遺跡をはじめ、チャビン、 セロ・セチン、ラ・パンパ、タラコなどの各遺跡から採取している。 また、コトシュ遺跡の無土器時代の神殿に付けられていた 「交差した手」のレリーフ は実物から型を起こしてレプリカが作られた。 以上に紹介したのが 当部門の管理・保管しているアンデス文化の代表的な考古資料である。
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