トロン電脳自動車網


トロン電脳自動車網研究委員会が、将来の電脳社会における自動車、ならびに自動車交 通網の構築を目指して自動車、電気、建築業界が結集して 1989 年 11 月に発足した。 トロン電脳自動車網は、コンピュータを利用して、自動車が他の車とはもちろんのこと、 道路や都市と協調的に情報交換を行い、自動車の運行を安全で快適なものにする“未来 の自動車網”である。

トロン応用プロジェクトとしては電脳住宅、電脳ビル、電脳都市などのプロジェクトが あるが、これらのものが実現した来たるべき電脳社会においては自動車もその社会の中 でネットワークに組み込まれ機能するものとなる。トロン電脳自動車網の世界では、自 動車はコンピュータを活用して他の自動車は無論のこと道路や都市とも協調的に情報交 換を行い、自動車の運行を安全で快適で効率的なものとする。なお、本研究会は 3 年 間の時限研究会であり、 1992 年 12 月を以て終了した。


主な活動

トロン電脳自動車網研究委員会は坂村プロジェクトリーダーの「トロン仕様のコンピュ ータは、一部の専門家ではなく、自動車のように普通の人びとが普段のあらゆる生活の 中で利用できるものである。しかし、自動車もますます情報機器の搭載が進むと、これ までのコンピュータのように特定の人しか使えなくなる事態が予想される。 AV 機器、 家電、自動車、パソコン、工業用コンピュータの操作まで全部を統一的な操作法で操作 できるようにすべきである。それには、トロン作法が最適であり、自動車もこの範ちゅ うで考えてほしい」との呼びかけによりスタートした。

本研究委員会は「ヒューマンマシンインタフェース( HMI )」、「 IC カード」、 「電脳道路」、「イメージ抽出」の 4 つの分科会を設け、活動を開始した。

HMI 分科会では自動車内におけるすべての操作に関してその取り扱うデータと操作法を 抽出し、それらを分類、整理した。基本操作としてはオン/オフ状態のいずれか 1 つ を選択する、複数の状態から 1 つを選択する、数量を決める、および文字列を決める、 の 4 つに分類し、この 4 つの基本操作をベースに自動車の具体的な操作法を標準パー ツとして登録した。各自動車は必要に応じてこれらのパーツの中から選択採用する。こ れにより国内外を問わずどのメーカーのどんな自動車を運転することになってもどのよ うな操作をしたらよいか迷うことはなくなる。また、これらのパーツの操作法はトロン 作法に沿っているため、自動車内での操作と家庭内のスイッチ類、 AV 機器の操作など と統一のとれたものとなる。

この分科会の活動の成果は「 TRON 電脳自動車基本操作編」としてまとめられた。さ らにこの成果は TRON 電子機器 HMI 研究会に引き継がれ、「 TRON 電脳生活 HMI 仕 様書」としてまとめられた。

IC カード分科会では IC カードを自動車と外部世界との接点ととらえ、 IC カードを情 報媒体として住宅やビル、さらには都市とを結ぶために TRON 電脳自動車 IC カードは いかにあるべきかを検討した。ここでは、自動車用 IC カードとして必要な機能と情報 について整理を行い、検討すべき主要課題の抽出作業を行った。 IC カードは小型のコ ンピュータであり、プログラム次第で種々の機能を果たすことができることを前提とし、 従来のカードにはない新しいコンセプト構築を目指している。

分科会ではこの IC カードの内部データの論理的フォーマットを定めるため、データの 抽出、整理を行った。また、想定される利用シーンを抽出し、必要となる機能の抽出や レンタカーなどでこの IC カードを一時貸与した場合など運用面での検討も行った。こ こで抽出されたデータフォーマットは最終的には自動車用 TAD ( TRON Application Databus )としてまとめられることになる。

この IC カードについては電脳住宅、電脳ビル、電脳都市、などのプロジェクトでも検 討が進められており、最終的にはそれらを統合した TRON カードとしてまとめられる ことになる。

「電脳道路」とは道路も現在のような単純な通行基盤ではなく、それ自身もセンサーや 情報機器がネットワーク化された存在となるという認識で電脳社会における道路のある べき姿を検討する。そこでは「電脳道路では数多くのセンサーが道路に埋めこまれてい るので、例えば、子供が道に飛び出してきたときには、飛び出てきたという情報を道路 が検出するとただちに自動車に伝え、電脳自動車のブレーキを自動的に作動させ、事故 を未然に防ぐ」という世界が実現することとなる。

このため、電脳道路分科会では共同溝、道路建設に関する検討、埋め込むセンサーの抽 出、路車間、車車間通信の検討を行った。

「イメージ抽出」分科会では電脳自動車、電脳自動車網、さらにはそれらの実現した電 脳社会のイメージをより明確に示すための基本作業を行った。ここでは未来の自動車、 自動車交通網の実現のための技術的な開発要件の抽出、実現可能性を検討し、さらには 社会的な背景についても予測を行った。このため各種の専門家を対象としたシンポジウ ムを行いアンケート形式による各種検討項目に関する考えを収集した。このデータに基 づきこれからの自動車網に関するイメージ構築のための指針を得ることができた。