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アルファベットは、学校で最初に学ぶものである。一旦自分のものにすれば、生涯を通じて記憶の中に刻み込まれる。愚かな生徒でも、アルファベットは覚えられる。 アルファベットの後に続いて、読み書きを習う。言葉や物語から成る未知の世界への第一歩が始まる。 26文字の質素なアルファベットは、我々を決して放さない。 建築家は、一般的には、あまり言葉や文章を用いない。数字を使う。製図を行う。なぐり書きはする。しかし、数字も図面もスケッチやなぐり書きも、理解させることができない場合には、建築家も言葉を使う。建築家にとって話をするということは、観たものを語ることを意味する。なぜなら、建築家の世界は、イメージからできているからだ。イメージが言葉を介して、物語となるのである。建築家は、話に、とても愛着を持っている。自分で語ることにも、誰かから聞くことでも。建築においては、物語以上の価値をもつ理論というのは存在しない。 随分昔のこと。教師が私に、赤い家の絵を見せた。そこには、緑色の窓がふたつ、茶色の扉が開いた状態でひとつ、描かれていた。この家の絵の下に、見たこともないふたつの点をもった無い曲線が印されていた。これは、Casa(家)のCである、覚えなさいと言った。 それから長い月日が経ってからようやく私は悟った。言葉はイメージであり、イメージは言葉である、ということを。 (東京 1977年9月)
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