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白石浩次郎コレクション・昆虫目録(蜻蛉目)

東京大学総合研究博物館所蔵 白石浩次郎昆虫コレクション目録(蜻蛉目)
須田真一1・杉浦由季2・粟野雄大3・加藤優里菜4・伊藤勇人5・伊藤泰弘6・矢後勝也6
1東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻
2東京大学教養学部理科二類
3東京大学農学部応用生命科学課程森林生物科学専修
4日本女子大学理学部物質生物科学科
5明治大学農学部農学科農学専修
6東京大学総合研究博物館

緒言

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白石トンボ
白石浩次郎氏は1941年東京生まれ。幼少時より昆虫に興味を持ち、高校生の頃よりトンボの調査研究を本格的に始める。学生時代より朝比奈正二郎博士の指導を受け、1957年設立の日本トンボ学会(当時は日本蜻蛉同好会)の創設時会員でもある。コレクションの収集範囲は日本全国におよび、日本産トンボ目のほぼ全種をご自身で採集された。ただし、自然保護の観点から採集は必要最低限に留めていたために標本点数は必ずしも多くはない。普及啓発活動にも熱心に取り組まれ、1983年には石川一氏、新井裕氏、松木和雄氏と共に発起人となり、関東在住のトンボ研究者・同好者同士が情報交換等を行える場として「関東地方蜻蛉懇談会」を設立し、世話人として会場確保などを一貫して担当された。1989年には東京都豊島区池袋のご自宅2階を改装し「平和・トンボ資料館」を開設され、毎月2回一般に無料で開放していた。資料館の開設は奥様の発案によるもので、開館前日には朝比奈博士をお招きして展示の最終的なチェックを行ったとお聞きしている。また、ご自宅に程近い区立池袋の森でトンボ類のモニリングを継続され、生息に大きな負の影響を与えている侵略的外来種アメリカザリガニの防除など、保全活動にも尽力された。2010年逝去(享年69歳)。コレクションは奥様を通じて東京大学総合研究博物館へ同年寄贈された。

白石コレクションには多くの貴重な標本資料が含まれているが、その特徴として以下の3点を挙げることができる。

1)1950~60年代の東京都区部周辺地域の標本資料

広域に良好な自然環境が存在した最後の時代に収集されたもの。特に練馬区江古田周辺の標本資料は、1920年代に調査された同一の地域を調査したもので、東京のトンボ相の変遷を知る上でかけがえのない資料である。

2)調査黎明期の埼玉県産標本資料

朝比奈博士の指導の下、1950年代当時未調査であった埼玉県のトンボ相解明に尽力され数々の新発見をされたことは、わが国のトンボ研究史に残る業績として知られている。そのときに収集された標本資料は学術的な価値だけでなく、研究史の資料としても極めて重要である。

3)小笠原諸島固有種の標本資料

環境庁第1回自然環境保全基礎調査の一環として関係機関の許可の下、小笠原諸島父島・母島において1983~84年に採集された固有種の標本およびその後を含めた生息状況等の調査資料。現在、父島・母島では侵略的外来種グリーンアノールの捕食圧などの影響によりほぼすべての固有種が絶滅したため、新たに標本を収集することは不可能であり、生息していた当時の状況を知る上で重要な資料である。

なお、ラベルの採集地名が実際の地名ではなく最寄りの鉄道駅名となっているものがあり、特に埼玉県産の標本には多い。これはおもに鉄道沿線で調査していたため調査の起点となった駅名を便宜的に書いていたことによる。本目録では生前の聞き取りおよび調査時に携行していた地形図の書き込みなどによって現時点において地名の考証ができたものは実際の地名を示している。それらの詳細については別稿「東京大学総合研究博物館所蔵白石浩次郎昆虫コレクション採集地名考証」としたので、こちらを参照頂きたい。


謝辞

本目録を作成するにあたり、白石浩次郎氏の奥様・白石寿美子氏および日本トンボ学会の渡辺賢一氏、和田茂樹氏、石川一氏、松木和雄氏には貴重な資料や情報をご提供頂いた。各氏に心よりお礼申し上げる。


参考文献

種の同定および学名表記などは尾園ほか(2012)に準拠し、補足的に杉村ほか(1999)、井上・浜田(1985)も用いた。

  • 尾園 暁・川島逸郎・二橋 亮, 2012. ネイチャーガイド日本のトンボ. 文一総合出版, 東京.
  • 杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司, 1999. 原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑. 北海道大学出版会, 札幌.
  • 浜田 康・井上 清, 1985. 日本産トンボ大図鑑、講談社, 東京.