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加藤正世コレクション・昆虫目録1(膜翅目)

東京大学総合研究博物館所蔵 加藤正世昆虫コレクション目録 第I部 膜翅目
長瀬博彦1・原田一志2・伊藤勇人3・伊藤泰弘1・矢後勝也1
1東京大学総合研究博物館
2成蹊大学法学部政治学科
3明治大学農学部農学科農学専修

緒言

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加藤ハチ
加藤正世博士 (1898–1967) は在野の半翅目(特にセミ類)研究者としてよく知られている.その一方で,「昆虫趣味の会」を主催,専門誌「昆蟲界」を発行,「分類原色日本昆虫図鑑」や「趣味の昆虫採集」等を著すなど,昆虫採集の趣味の普及にも努められた啓蒙家でもあった.加藤博士の収集された標本は昆虫全般にわたって約5万点におよび,没後は御家族によりしばらく保管されていたが,2010年に東京大学総合研究博物館へ寄贈された.本報告はそのうちの膜翅目を整理してデータベース化したものである.

膜翅目(ハチ・アリ類)はごく一部にミツバチ・スズメバチ等のようなよく知られた昆虫も含まれるが,大部分は人目につきにくい膨大な種数を含む昆虫のグループである.そのためか研究者の数も比較的少なく,アマチュアの愛好者も少ないため,分類学的研究は遅れ気味で,コレクションの数も少ない.加藤博士のコレクションに含まれている膜翅目は約1,900 点で,コレクション全体に対しては4%ほどと比率は高くないが,大正末期から昭和初期にかけての標本として極めて貴重なものである.

標本は加藤博士の生前にある程度ご自身で整理されていたと思われ,一部は標本箱に膜翅目だけが入れられていたり,採集地単位にまとめられていたりしたものもあったが,保管の間に標本の移動が行われた模様で,他の昆虫と詰め合わせになっていた標本箱も多かった.そのためにデータベース作成に合わせて20数箱に分散していた膜翅目の標本を17箱の中型ドイツ箱に収めた.何分標本が古くて標本箱も完全なものでなく,管理の行き届かなかった時代もあったかと推測されて,一部の標本では破損やカビ,虫害があり,また昆虫針のサビも出ていて,特に小型の標本では同定不能のものが少なからずある.

加藤博士の膜翅目標本約1,900 点のうち, 1,400 点弱は日本産で,同博士が約4年間 (1923–1928) 素木得一博士の助手として過ごした台湾産が約 420 点,米国のL. Gressit博士との交換で入手されたと推定される米国産約 100 点等が含まれる.日本産のものは 1916–1957 年の採集品だが,主体は 1932–1941 年採集のもので,その前後は比較的少ない.一方で台湾産のものは 1919–1941 年の採集品だが,主体は 1923–1927 年採集のものである.内容的には,加藤博士が膜翅目の専門家ではないので,小型の種類が少ないのは止むを得ないが,大型のものはかなり万遍なく採集されていて,中にはエサキアシブトハバチのような稀種も含まれている(篠原・長瀬,2014).


データベースの注記

本データベースの作成にあたり,ラベル等にある採集年月日や地名等の表記は統一し,学名は現在の有効名に従った.詳細は下記の通りである.

1) 備考欄にある丸括弧内の記述は,標本等についていた採集年月日,採集地,採集者以外の同定その他の情報である.

2) ラベルの採集年月日の表示は大部分がアメリカ式(月日年順)の表示だったが,一部明らかに日本式(年月日順)のものもあった.分かる限りは欧州式(日月年順)に改めたが,不明確な場合は推定した日付の後に(?)をつけた(原ラベルの表示も残してある).単語の印字が不明瞭な際もその語の後に(?)をつけた.

3) 採集地は分かる限り現在の地名に改め,特定できる場合は市区町村も追加した.別自治体に合併された市町村名は丸括弧内に旧自治体名を示した.原記載の地名が合併後何らかの理由で現地名を表現できない場合,合併後の市区町村名のみを表記した.

4) 市町村より下位の地名が変更された場合は丸括弧を用いずに表し,廃止された地名は頭に旧の一語を追記した.台湾の地名表記は基本的にウェード式を採用した.また「台北」,「台北市」表記になっているものには旧台北県(現,新北市)のものが混在している可能性もある.

5) 標本の配列は日本産と外国産を原則別箱にしたが,一部収納の関係で例外的に日本産の箱に台湾産のものが入っている(ハバチ類).

6) 大分類は自然分類とし,中分類では亜科以下アルファベット順を原則にしたが,作成後の学名の訂正などもあって,ところどころ不規則になっている.亜属は原則として省略し,時に属として使われる場合にのみ使用した.

7) 性別欄では働きバチをw (worker) で示した.

8) 展示用に巣や成虫などを組み合わせた箱が数個あるが,これらは標本リストの最後に加えた.


謝辞

本目録の作成にあたり,加藤正世博士の五女・鈴木薗子氏ならびに孫・鈴木真理子氏には,貴重な標本・資料等のコレクションを東京大学総合研究博物館にご寄贈頂いた.篠原明彦博士(国立科学博物館)および渡辺恭平学芸員(神奈川県立生命の星・地球博物館)には一部の同定でご助力頂いた.吉田良和氏には一部の標本撮影でお世話になった.各位に心よりお礼を申し上げる.


引用文献

  • 篠原明彦・長瀬博彦,2014.本州未記録のエサキアシブトハバチの東京都港区からの採集記録.昆虫(ニューシリーズ),17 (2): 86–87.