頭が大きくなれたのは直立二足歩行のおかげ?



 「直立二足歩行をするためには、バランスよく頭が脊柱の上にのっていなければならない。そのため、頭骨の構造に変革が起こり、人類では頭骨が首の真上にきている。これは猿人の時代からそうであり、そのため、ホモ属になって、頭がどんどん大きく重くなっても大丈夫であった。いうならば、現代人の大きな脳が進化できたのは、もともと直立していたおかげである」、との説明です。これはまったくナンセンスと思います。
 そもそも類人猿や多くのサル類は直立姿勢をとりますが、頭の構造改革などとは無縁です。頸部が垂直であろうが(例えばキリンなどもそうですが)、頭をわざわざ首の真上に乗せる必要などないのです。靭帯や筋肉で十分補えるはずだし、頭が若干前方に位置していても体重心全体がそうくずれることもないでしょう。
 では、人類では頭はなぜ脊柱の真上にくるのか?厳密には、初期人類では顔面と顎はやはり前突しているので、現代人と比べると「真上」には位置していませんが、それでも類人猿と比べると、より真上に近いことは事実です。専門的にいうと、頭蓋底(頭骨の底部、脳が上に乗っている部分)が屈曲し、脊髄の出口(大後頭孔)が下方を向くようになっているのです。

また、頚部の様々な神経や血管の出入り口に対して、大後頭孔がより前方に位置しています。では、こうした構造が、はたして直立姿勢における頭部のバランスと関連するのだろうか?専門家の意見も様々で、多くは姿勢・バランス説の信奉者のようですが、私は懐疑的です。逆に、頚部の諸器官と脳との間や、脳の部位間の発生パターンに変化があったならば、頭蓋底の詳細は変わるはずです。小脳と大脳のいずれかに変化があっても良いだろうし、喉もとの変化もそうした原因と成り得るでしょう。そうしたことで頭がより「真上」に位置するようになり、いわゆる姿勢適応は二次的な効果だったに過ぎないのかもしれません。