第2部 展示解説 動物界

軟体動物の分類と系統関係

二枚貝綱(Class Bivalvia)

 

異歯亜網 (Subclass Heterodonta):

 異歯型の交歯を もっ。二枚貝綱の中で最も種数の多い分類群 である。

 一部に固着型の種があるが、大部分は海底中に潜入 して生活する。深く潜入するグループでは外套膜が癒合して、水を出し入れするための構造である水管が発達する。靭帯は筒状靭帯で、一部に弾帯 (内靭帯)をもつものがある。閉殻筋肉は前後に2つある (双筋型) 。現 生種はマルスダレガイ目とオオノガイ自の 2目に分類されている。

 (1) マルスダレガイ目 (Order Veneroida):

 成体では足糸を失っているものが多い。二枚貝網中最も多様化の進んだグループである。 Beesley et al.(1998) では 18上科 36科に分類されている。

 キクザル科上科 Chamoidea のキクザル科 Chamidae (カラー図 1C) は岩礁に固着して生活する。右殻で固着する種と左殻で固着する種がある。 英名は jewel box ( 宝石箱 ) 。ツキガイ上科 Lucinoidea は水管をもたず、そのため殻の内側には外套線湾入がなく、足が小 さく細長いことが特徴である。鰓に共生細菌をもち、細菌の生産するエネルギーを利用する種が知られている。ツキガイ科 Luchidae は円形に近い殻をもち、しばしば格子状の彫刻をもつ( 図 8A) 。 カゴガイ科 Fimbriidae は現生種は 2種のみで、強い同心円状の彫刻をもつ。英名は basket clam 。 ハナシガイ科 Thyasiridae の殻は平滑で、交歯が全くない種が多く、和名は「歯無貝」を意味する。フタバシラガイ科Ungulinidaeは、分岐する 2つの主歯をもつ。 和名は「二歯白貝」で 2つの歯をもつ白い貝という意味である。 フタパシラガイ属の属名は Diplodontaであるが、 diploは「2 つ」、 dont は「歯」を意味する。ウロコガイ上科 Galeommnatoidea のウロコガイ科 Galeommmatidae は小型の二枚貝類で、殻は透き通るように薄い種が多い。 他の様々な無脊椎動物の体表に寄生または共生する習性をもつ点で特異である。トマヤガイ上科 Carditoidea のトマヤガイ科 Carditidae は殻表に強い放射状の彫刻をもっ。トマヤガイ類 Cardiata は岩礁に足糸で付着するが、成体になっても足糸付着型を保持する生活様式は異歯亜網では珍しい。学名の Cardiata は「小さな船」を意味する。モシオガイ上科 Crassatelloidea のモシオガイ科 Crassatellidae は同心円状の彫刻をもち、筒状靭帯と弾帯の両方をもつ。水管は形成しないが、殻の後端がやや突出することが特徴である。エゾシラ オガイ科 Astartidae は同心円状の彫刻をもつことではモシオガイ科に類似するが、弾帯をもたず、類円形の種が多い。 ザルガイ上科 Cardioidea のザルガイ科 Cardiidaeは、放射状の強い彫刻をもち、肋上に突起や鱗片状の彫刻をもつものが多い ( 図 8B) 。外套膜は 後端で癒合して短い水管を形成し、その先端には 多数の触角と眼点をもつ。サンゴ礁域に生息する種には褐虫藻 ( ゾーザンテラ zooxanthelia) を共生させる種がある。リュウキュウアオイ Corculum cardissa( 佐々木 , 2002: 図 2-34) はその代表的な例である。

 シャコガイ上科 Tridacnoidea のシャコガイ科 Tridacnidae は熱帯〜亜熱帯域の珊瑚礁に生息し、体内にゾーザンテラを共生させている。通常の二枚貝とは異なり、腹側を上にして海底上に横たわり、 ゾーザンテラが含まれる外套膜に最も効率よく光がよく当 たるような姿勢を保っている。種によって生活様式が 異なり、足糸で付着するもの、死んだサンゴに穿孔するもの、自由生活を送るものがある。英名は giant clam 。オオシャコガイ Tridacna gigas は殻長 1m 以上に達し、世界最大の二枚貝である。バカガイ上科 Mactroidea のバカガイ科 Mactridae は主に浅海の砂底 に生息する。殻の内側の中央には主歯と弾帯、そしてその両側には長い側歯がある。 バカガイ類 Mactra では左右の殻はぴったりと閉じているが、ミルクイ Tresus keenae や、カモジガイ類 Lutraria では、水管が長くのぴ、殻の後端は開いている。チド リマスオ科 Mesodesmatidae(図 8D) は殻の外形はバカガイ科に似ているが、バカガイ科では主歯の後側に弾帯があるのに対して、この科では主歯の聞に弾帯がある。学名の Mesodesma はこの特徴に関係があり、meso は「中」 、 desmos は「靭帯」を意味する。キサガイ科 Cardiliidae は背腹方向に殻が長い。異歯亜綱では殻は前後に長 いものが多く、他に背腹に長いものはザルガイ科に見られる程度である。後側の閉殻筋の付着部が隔板状に殻の内側に突出する点も特徴的である。マテガイ上科 Solenioidea は前後に細長い殻をもつ。 殻の前縁と後縁は開いているが、前端からは足が伸び、後端からは水を出し入れするための水管が伸 びる。学名の Soten はギリシャ語で「パイプ 」を意味する。英名は razor clam 。マテガイ科 SoleEddae では後端が裁断状で直線的であるが、ナタマメガイ科 Pharellidae では丸みを帯びた形をしている。ニッコウガイ上科 Tellinoidea は扇平な殻をもつ種が多い。ニッコウガイ科 Tellinidae は浅海の砂底を特徴づける科である。しばしば殻が右側に向けて曲がっている点が特徴的である ( 佐々木 , 2002: 図 2-46) 。アサジガイ科 Semelidae の種は外形がニッコウガイ科と類似しており、外形からは区別は難 しい。しかし、アサジガイ科には交歯の聞に弾帯があるが、ニッコウガイ科にはそれが無い点で区別 される。 シオサザナミ科 Psammobiidae は靭帯が特によく発達 し、付着のための張り出し部をもつ種が多い。一部に は殻表に斜めの肋を形成する種があるが、特にウチトミガイ Heteroglypta contraria (図 8C) は、前方と後方で異なる向きの彫刻を形成する点で特異である。キヌ タアゲマキ科 Solecurtidae は、殻表にくの字型の彫刻 をもつ( ただし、ズングリアゲマキ類 Azorinus は平滑 ) 。 水管と足が殻よりも大きくはみだしており、殻の前と後は開いたままで閉じることができない。フジノハナガイ 科 Donacidae は殻頂が前側に偏った三角形の殻をもつ( 佐々木,2002: 図 2-51) 。多くは外洋に面 した砂浜に生息する。アイスランドガイ上科 Aretinoidea のアイスランドガイ科 Arcticidae は北大西洋に1種のみ分布する。フナガタガイ科 Trapedidae は横長の殻をもち、ケシハマグリ科 Kelliellidae は円形に近く、数 mm 程度の小型種からなる。オトヒメハマグリ科 Vesicomyidae は深海に適応したグループである。特にシロウリガイ類 Calyptogena は、鰓に共生細菌をもち、深海では例外的に大型になり、化学合成生物群集を特徴づける貝である。

 コウボネガイ上科 Glossoidea のコウボネガイ科 Glossidae の殻は、前側から見ると、殻頂が螺旋状に巻き込んでいる。そのため、二枚貝もらせん状に成長していることが理解できる。シジミ上科 Corbiculoidea は 淡水〜汽水に生息する。シジミ科 Corbiculidae は食用 に用いられる。マングロープに生息するヒルギシジミ類 Geloina は 10cm に達し巨大である。マメシジミ科 Sphaeriidae は非常に小型で、食用としての利用価値は無い。貝殻は白く、殻皮は薄い。マルスダレガイ上科 Veneroidea のマルスダレガイ科 Veneridae( カラー図 1D, 図 8E) は二枚貝中、最も種数の多い科である。アサリやハマグリ等の水産有用種が多い。英名は Venus clam。 イワホリガイ科 Ptericolidae は岩礁 に穿孔し、マルスダレガイ目の中では例外的な存在である。ハナグモリガイ科 Glauconomidae は干潟の泥底に生息する。

 (2) オオノガイ目 (Order Myoida):

 水管が比較的長く発達し、左右の外套膜が癒合する。多くの種では殻の前側あるいは後側が大きく聞いている。 Beesley et al.(1998) では、 4上科 6科に分類 されている。

 オオノガイ上科 Myoidea のオオノガイ科 Myidae は非常に長い水管をもち、深く潜入して生息する。 左殻にある靭帯受 (chondrophore) が大きく突出する。クチベニガイ科 Corbulidae は右殻が左殻よりも大きく、片側の殻を抱き込むような形をもつ。ツクエガイ上科 Gastrochaenoidea のツクエガイ科 Gastrochaenidae は穿孔性で、サンゴや貝殻に穿孔する。殻の前側が大きく聞いている点が特徴である。キヌマトイガイ上科 Hiatelloidea のキヌマトイガイ科 Hiatellidae では、大型の種は水管が著しく長くなり、殻の中に完全に引き込むことができない。 ナミガイ Panopea japonica はその典型的な例である。ニオガイ上科 Pholadoidea は多くの種が穿孔性である。ニオガイ科 Pholadidae の一部には泥中に生息するものもあるが、多くの種は泥岩、サンゴ、木材等に穿孔する。キクイガイ科 Xylophaginidae とフナクイムシ科 TerediInidae は木材に穿孔し、体は著しく細長く伸び、内臓は体の後部のみに位置している。ニオガイ上科には他の二枚貝類には見られない構造が多く見られる。ニオガイ科とフナク イムシ科では、殻の内側に足を動かす筋肉が付着するための棒状突起 (apophysis) が形成される。ニオガイ科では、殻の背側に中板 (mesoplax) 、後板 (metaplax) 、前板 (protoplax) など、付属的な殻板をもつ。フナクイ ムシ科では穿孔して形成した空間に蓋をするための尾栓 (pallet) が体の後端に付属する。

 

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