よく知られるように、主としてエトルリアや南イタリアの墓からは、型、技法、出土地も様々な非常に数多くの陶器が出土したが、その中には画像入りの例証も多数含まれた。本展では、古代地中海美術館カタログ(東京1994、以下省略記号AMM)にすでに公表されている幾つかの典型的な陶器を展示し、その一端を紹介する。 |
62 アリュバロス、中期コリントス陶器: Fig.160
球形の香油壷。胴部は数段の装飾帯に分割され、上方には鱗文が、中央のフリーズ(帯状の画面)には、草を食べている山羊と、豹が描かれている。動物の周りには、ロゼット文がちりばめられ、余白を埋めている。動物を一列に配した獣帯文は、中近東からもたらされた工芸品の装飾に影響を受けたもので、東方化様式時代のコリントス陶器に典型的な装飾である。焼成時の窯内の空気が不均一であったため、本来、黒く発色するはずであった形像が、赤変している。前590−570年頃;高さ14.6cm;口径5.8cm;AMM n.17.
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Fig.160 アリュバロス:中期コリントス陶器 Mittelkorinthischer Aryballos mit Tierfries
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63 キュリクス(バンド・カップ)、アッティカ黒像式陶器: Fig.161
キュリクスとは、ふたつの把手と高い脚の付いた浅い酒杯のこと。杯に帯状の画面が設けられていることから、このタイプのキュリクスは「バンド・カップ」と呼ばれている。中央に大きな翼を広げたスフィンクスが表され、左右にヒュマティオンをまとった男性が3人ずつ描かれている。スフィンクスの胸部と顔は白く塗られている。把手の脇にはパルメット文が描かれる。前530−520年頃;高さ13.5cm;口径21.5cm;AMM n.21.
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Fig.161 キュリクス(バンド・カップ):アッティカ黒像式 Attische schwarzfig.Bandhenkelshale mit Sphingen und kleinem Gigurenfries
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64 キュリクス(アイ・カップ)、アッティカ黒像式陶器: Fig.162
キュリクスの両面に大きな目が描かれている。目のモチーフは、エジプト起源であるが、邪視(災いをもたらす視線)を避ける魔除けとして、ギリシア陶器にも好まれた。目のあいだには、一方の面に、武装して、楯を構え、膝をかがめた男が描かれている。敵に襲いかかろうと潜伏している兵士の姿である。もう一方の面に描かれた花輪をもって踊る女性は、赤い獣皮を着ていることから、葡萄酒の神デイオニュソスに付き従う信女マイナスであることが判る。前540−520年頃;直径21.6cm;AMM n.23.
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Fig.162 キュリクス(アイ・カップ):アッティカ黒像式陶器 Attische schwarzfig.Kylix/Augenschale mit Krieger und Frau
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65 アンフォラ(馬頭アンフォラ)、アッティカ黒像式陶器: Fig.163
器面を黒く塗り、パネル状の画面に馬の頭部を表したアンフォラ。馬頭アンフォラと通称されるこのタイプのアンフォラは、黒像式の技法がコリントス陶器の影響で、アッティカ地方(アテネとその一帯)に導入されて間もない前6世紀初頭から前半にかけて作られた。墓碑や納骨器として使用されたケースも多いが、競技会の賞品として制作されたとも考えられている。前575−550年頃;高さ22.5cm;AMM n.21.
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Fig.163 アンフォラ(馬頭アンフォラ):アッティカ黒像式陶器 Attische schwatzfig.Amphora mit Pferdekopf
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66 パテラ、アプリア陶器: Fig.164
アッティカ地方における製陶業が不振になった前4世紀、それまでアッティカ陶器を大量に輸入していた南イタリアやシチリアの植民市では、これに代わる陶器を自分たちの手で制作する必要に迫られた。植民市ではギリシアから移住した陶器職人も活動していたが、やがて独自の地方様式が確立された。なかでも南イタリアのアプリア(プーリア)地方で制作されたアプリア陶器は質量ともに他の流派を圧倒している。縁にそった平らな把手と、球状のつまみがついた平皿(パテラ)は、アプリア陶器特有のもので、葬礼などの儀式に使用された。皿の内側の円形画面にキスタ(筐)とシトゥラ(バケツ型の容器)を手にした有翼のニケ(勝利の女神)の姿が描かれ、白い唐草文様が周りを取り囲んでいる。前330年頃;直径37.5cm;AMM n.76.
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Fig.164 パテラ:アプリア陶器 Apulische rotfig.Patera mit sitzender geflügelter Frau,vielleicht Nike
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67 スキュフォス,アプリア陶器: Fig.165
アプリア陶器には、女性の頭部を描いたものが多く、特に皿や酒杯などの小型陶器には、女性の横顔のモティーフのみを表したものがよく見受けられる。豊かな髪はサッコスとよばれる網のような布でまとめられ、耳飾りや頸飾りで豪華に装飾されている。白や黄による鮮やかな賦彩もアプリア陶器の特徴である。前4世紀後半;高さ21.9cm;直径32.4cm;AMM n.78.
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Fig.165 スキフォス:アプリア陶器 Apulischer rotfig.Skyphos mit Frauenprofilkopf mit Haube
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68 カンタロス,アプリア陶器: Fig.166
カンタロスとは、本来、甲虫の意であるが、長くのびた把手と高い脚部をもつ深い酒杯をさす。上方に長くのびた把手が特徴的。酒神デイオニュソスの持物(アトリビュート)であり、大きなカンタロスを手にしたディオニュソスの姿が陶器画、浮彫りなどに数多く描かれている。南イタリアでは、主に後期アプリア陶器でこのタイプの杯が好まれた。杯部には、n.67と同様の女性の横顔が、より簡略化された表現で描かれている。前4世紀末;高さ21.0cm;AMM n.79.
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Fig.166 カンタロス:アプリア陶器 Apulischer rotfig.Kantharos mit Frauenprofilkopf mit Haube
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69 アスコス,ダウニア陶器: Fig.167
アプリア地方のアドリア海に面した北部一帯は、ダウニアと呼ばれていた。先住のダウニア人や近隣の住民(ペウケテイア人、メッサピア人など)は、ギリシア文化の影響を被りながら、独自の文化を築いていた。ダウニア陶器もこうした文化の産物のひとつであり、ギリシアの幾何学様式陶器(前925−700年頃)の影響のもとに、前700年頃から前300年頃にかけて、多彩色による幾何学文で装飾された陶器が独自の発展を遂げた。アスコスとは、葡萄酒をいれる革袋の形を模したギリシア陶器の器形で、扁平な胴部に注口と1本の把手がつく。前5−4世紀;高さ13.5cm;幅19.0cm;AMM n.82.
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Fig.167 アスコス:ダウニア陶器 Daunischer Askos mit farbiger geometnscher Verzjerung
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70 オッラ、ダウニア陶器: Fig.168
頸部はくびれ、漏斗状に広がった口部が付く。クリーム色の化粧土を塗った上に、赤褐色と黒色で線文やジグザグ文などが描かれている。把手には、動物の顔をかたどった貼付装飾が施される。前5−4世紀;高さ21.5cm;幅23.0cm;AMM n.84.
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Fig.168 オッラ:ダウニア陶器 Daunische Olla mit farbiger geometrischer Verzierung
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71 キュアトス、ダウニア陶器: Fig.169
杯のような胴部と長い柄がついたキュアトスは、葡萄酒をクラテール(混酒器:葡萄酒を水で割るための大型陶器。古代世界の酒宴では、葡萄酒は生のままでは飲まなかった)から酒杯に注ぐ際に使用されたといわれている。ダウニア陶器で最も好まれた器形のひとつであり、帯状の把手の先端には、この作品に見られるような突起や、人間の姿をかたどった装飾が付された。前5−4世紀;高さ12.0cm;幅9.5cm;AMM n.89.
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Fig.169 キュアトス:ダウニア陶器 Daunischer Kyathos mitfarbiger geqmetrischer Verzierun
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72 把手付き二連壷、ダウニア陶器: Fig.170
ふたつの壷をつなげ、あいだに一本の把手を付した二連壷。前4世紀以降のダウニア陶器は、アプリア陶器やグナティア陶器の影響を受け、従来の素朴な幾何学文による装飾から、唐草文や蔦葉文、波頭文などのより複雑な装飾文様を採り入れるようになった。前4−3世紀頃;高さ21.0cm;幅27.5cm;AMM n.95.
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Fig.170 把手付き二連壼:ダウニア陶器 Canosiner DoppelgefaB mit vegetabiler Verzierung
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73 キュリクス、黒粕陶器: Fig.171
器面全体に光沢のある黒い顔料(陶土の溶液を濃縮したもの)を塗った黒糖陶器は、前5世紀以降のアテナイを中心に制作され、これを模倣したものが、前400年頃から前100年頃にかけてカンパーニア地方などイタリア各地でも制作された。カンパーニア陶器とも呼ばれているこれらの陶器には、絵付け装飾はないが、この作品に見られるような、パルメット文などの型押装飾がしばしば施された。パルメット文の周りは、ルーレットによる小さな点文の装飾帯で囲まれている。前4世紀;高さ515cm;直径16.0cm;AMM n.99.
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Fig.171 キュリクス:黒粕陶器 Campanische Schwarzfirnis-Kylix mit Stempelverzierung
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74 グットゥス、黒粕陶器: Fig.172
環状の把手のある、蓋付きのグットゥス。油差しとして使用されたと考えられる。斜め上方に向かって付された注口はライオンの頭部をかたどり、胴部全体にリブ状の隆起文がある。前4世紀;高さ5.5cm;直径10.0cm;AMM n.108.
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Fig.172 グットゥス:黒粕陶器 Süditalischer Schwarzfirnis-Guttus mit Lowenkopfprotome
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75 オイノコエ、黒粕陶器: Fig.173
三葉形の注口のある水差しのような形をした酒瓶をオイノコエという。宴会や儀式には欠かせない酒器である。肩部から胴部かけて、金属器の装飾を模倣したリブ状の隆起文が施されている。前4世紀;高さ13.0cm;AMM n.105.
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Fig.173 オイノコエ:黒紬陶器 Süditalische gerippte Schwarzfimis-Oinochoe
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76 カリス、ブッケロ(エトルリア陶器): Fig.174
ブッケロとは、前7世紀から前5世紀前半まで作られたエトルリアの陶器。還元炎で焼成するため、全体が光沢のある黒い色を帯びている。高い脚部が付いた把手のない杯をカリスという。ブッケロの代表的な器形のひとつで、脚台と杯部が一体のものとして成形されている。杯部には3本の水平線が付され、その上に半円形と楔形の点文が交互に並べらている。前6世紀;高さ14.5cm;直径15.5cm;AMM n.62.
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Fig.174 カリス:カケロ(エトルリア陶器) Etruskischer Buccherokelch mit Fachermuster
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77 オルペ、ブッケロ(エトルリア陶器): Fig.175
オイノコエ(n.74)と同様に、水差しのような形をした酒瓶で、口部が円形となったものをオルペという。3本の水平線と、扇形の点文による装飾帯が頸部に巡らされ、把手は、装飾帯が付されたあとで取り付けられている。前6世紀;高さ16.8cm;直径13,5cm;AMM n.66.
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Fig.175 オルペ:ブッケロ(エトルリア陶器) Etruskische Bucchero-Oinochoe mit Fachermuster
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78 キュアトス、ブッケロ(エトルリア陶器): Fig.176
脚付きのキュアトス。把手の頂部に付された装飾には、人面が浮彫りによって表され、杯碗部には、金属製のフィアレなどにみられる浮き出し文が刻まれている。ブッケロは、主に金属器の器形を模倣し、主に副葬品として用いられたと考えられているが、西地中海域一帯にも広く輸出された。前6世紀後半;高さ18.0cm;直径15.5cm;AMM n.67.
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Fig.176 キュアトスニブッケロ(エトルリア陶器) Etruskischer gerippter Buccherokyathosmit Henkelknopfverzierung |